─番外編─ ページ50
―――私はいつの間にか、この場所へ
連れて来られていた。
どうやら私は正気を失ってしまっていた
らしく、雨下の仲間たちに
迷惑を掛けたそうだ。
だから、償いも込めてここで
協力する事にした。
けれど、あの時、そう―――正気を失って
暴れていた時。
聴こえたんだ―――また。
あの声が。
『雨葱、分かる…分かるよ……
うん、１人にして…ごめんね』
雨下は優しい奴だ。
この４年間、どこまでも私を心配して
毎日の様に会いに来て…
いつだったか、私の所へ来る時に雨下が
凶暴な動物に襲われた事があったな…
それからというもの、雨下が怪我を
しないように、私から出向く様になった。
昔を懐かしく思い、寝かされた居心地の良い
大木の中でふぅーと息を吐いた。
すると、突然視界に木綿とかいう男が
映り込んで話し掛けて来た。
「雨下が世話になったそうだね」
いや、世話になったのはこちらの方だろう。
あんなに世話を焼かれたのは初めてだ。
けれど、ちょっとだけ嘘をついた。
「…まあ
ところで、お前は雨下の何なんだ？」
「はぁ…さっきまで敬語だったけど、
意外に生意気な口を叩くんだな」
生意気はこちらの台詞だ。
「さっさと答えろ」
私は睨みを効かせて言った。
すると、木綿は笑って答えた。
「僕が雨下の何なのか…それは、
雨下に訊けば分かる事じゃないのかい？」
「何となくお前の口から聞きたい」
「素直じゃないなぁ…
良いよ。別に減るものじゃないしね。
雨下は―――僕の妹なんだ」
「妹……か。なら、お前は雨下の兄って
事で合っているのか？」
「当たり前だろう？
雨下は４年前、この森に突然現れただろ。
その時、僕ら家族と雨下は生き別れて
しまったのさ。
当然、探したけれど見つからなかった」
何だかそれを聞いて私は悪い気がしてきた。
悲しい記憶を呼び覚ましてしまったようで。
「悪かった。
まさかそんな経緯があったとは思わず…」
「いいや…確かに４年前、僕は雨下を
探したが見つからなかった。
けれど、同時に諦めてしまった。
生きていたのに…だから―――」
木綿はあの時の雨下と同じ顔をしていた。
あの時の雨下が目の前に居るようで…
しかし、雨下とは違う形の
後悔の言葉を放った。
「―――僕は僕が憎い」
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作者名：雨音 時雨 | 作成日時：2021年2月26日 0時
