朝が来ない世界ならば― （47） ページ47
目の前に現れた"それ"は明らかに獣だった。
しかし、クウォーターである為か、
獣耳や尻尾などがなく、ただの人間の様だ。
それでも、遠くからでもはっきりと分かった
あれだけ強い獣の気配。
仲間に出来たならば、攻撃力では
何が出て来ても勝てるだろう。
そう早まった気持ちが僕の足を一歩
雨葱へと近づけた。
しかし、跳ね返されるかのような…
僕の足は一歩踏み出した筈なのに、
一歩引いてしまっていた。
ただ、この強さ、威嚇…
到底、雨下と仲良く出来なさそうだが…？
そして、雨葱をよく見て気付いた。
「全員、雨葱に近付くなっ！」
僕は皆に向かって叫んだ。
突然の事で皆驚いた顔で固まっている
けれど、間違いない…
雨葱の様子がおかしいと思った。
彼女は獣の血を受け継いでいる。
つまり、"狼男"とかそういう部類と同じ…
月の光で獣の力が増幅される。
今は特に獣の力に支配されているのだろう。
雨葱の目はオッドアイでは無い、
しかし、今までに見た人々の瞳と比べても
鋭さはもちろんのこと、殺気がとにかく
凄まじい。
殺気だけで跳ね返されてしまう。
その瞳は獣そのものの目だった。
暗がりの中で淡い月明かりに照らされて、
雨葱の瞳が閃光のように光っている。
身近なもので言い表すならば、
夜に猫に出会うような感じ。
「雨葱…苦しいの…？」
１人冷静さを保った者が言った。
僕は驚いてその声の主の方を見る。
―――雨下だ。
「雨葱、分かる…分かるよ……
うん、１人にして…ごめんね」
雨下は涙を流していた。
雨下が話し掛ける程に雨葱の殺気が
収まっていく。
それでも、雨葱に流れる人間の血と獣の血が
戦っているのだろうか…
殺気が収まる代わりに表情が苦痛へと
変わっていくその姿は見ていられない程
だった。
「うがぁぁぁぁーーー！！！」
最後には、雨葱が叫びながら
倒れてしまった。
僕は直ぐに側まで行き、様子を見たが、
どうやら失神しているだけだった。
「お兄ちゃん、思い出しました。
雨葱は定期的に遊びに来ていましたが、
満月の夜だけは来たことがありません。
きっとその理由は…」
「獣の力が強まるんだ。
最も、元の世界ではコントロール出来た
んだと思うけどね」
「ええ、ある程度は出来ると
言っていました」
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作者名：雨音 時雨 | 作成日時：2021年2月26日 0時
