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朝が来ない世界ならば― (37) ページ37

―――何年ぶりに共に祝うのだろう。

 雨打と別れてからというもの、

 全くと言っていい程に

 誕生日を祝ってもらえた記憶が無い。

 当然と言ったらそれきりだ。

 あんな伯母の元で軽蔑されながら

 生活していたのだから、

 仕方のない事だろう。



 僕たちは食材の調達を終え、

 その他に必要な物を探していた。

 木綿の妹である雨下も料理などには

 興味があるらしく、

 「4年前から街を離れていたのが

  もったいなかったと思う程です…!」

 と嘆く程だった。

 そう言うだけのことはあって、

 雨下は調理器具を丁寧に見極めて

 たくさんの種類がある中で選び抜いた。

 だが、所縁はやっぱり普通の人じゃない

 様な感じ……まあ、不思議ちゃん的な感じで、

 何事に関して話を振っても

 「初めて見た」「そうなのか」

 なんて言葉しか返って来ない。



 ―――色々あったが一応物は揃い、

 無事、秘密基地へと帰って来る事ができた。

 今回、僕、雨打、所縁の3人を祝う為、

 準備は木綿と雨下だけで行った。

 「ったく…なんで僕がこんなこと…」

 「お兄ちゃん、

  そんなこと言っちゃいけませんよ」

 なんて会話をしつつも、

 なんとか準備は整ったらしい。

 「はーい

  3人とも目を開けて良いですよー」

 雨下の声が掛かり、

 僕たちは目を開けた。

 すると、僕たちの目の前に大きなケーキが

 置かれていた。

 どうやら木綿が作ったらしく、

 木で作ったテーブルの奥で

 木綿が照れている。

 雨下も笑顔で僕たちに言った。

 「所縁さん、私たちの仲間になって

  くれてありがとうございます!

  そして、時雨さん、雨打さん、

  お誕生日おめでとうございます…!」

 久しぶりに祝ってもらえたのが

 嬉しくて、そして何より、

 雨打が隣りにいることが嬉しくって…

 僕は思わず泣いてしまった。

 もちろん、嬉し涙だ。

 隣りを見ると、雨打も笑顔で泣いていた。

 雨打から本当に小さな声で聴こえてきた。

 「……ありがとう」

 その小さな声は木綿と雨下に

 届いただろうか。

 そう思ってしまう程に小さな声だった。

 ふと、僕の右に居た所縁を見ると、

 所縁も慣れていないのか、照れた表情で

 少し笑っていた。

 出会った時の笑顔よりも

 だいぶ柔らかな笑顔でそっと言った。

 「か、感謝する」

 僕も言わなければ。



 ―――『ありがとう』と。

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作者名:雨音 時雨 | 作成日時:2021年2月26日 0時

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