朝が来ない世界ならば― （32） ページ33
「―――それで、例の路地裏は…？」
木綿が僕に不安気な目を向けて言った。
「ああ、それなら多分あそこだよ。
ほら、『三つ葉公園』って彫られた石の
立ってる方」
「んー？どれどれ……本当だね。
じゃあ、あの辺りを捜そうか」
すると、珍しく雨打が言った。
「やっぱり……
路地裏に居るっていうのも変だし、
この公園が建物に囲まれてるのも変」
それは僕も共感できた。
普通、小さな子供たちが遊ぶ場所なのだから
公園はもっと多くの人の目に付く様な
場所にあるのが自然だ。
「ええ……そうですよね。
私もそう思います。幼い頃の話なので
あまり覚えてはいませんが、
確か私の父が少しこの公園の土地の
所有者と関係を持っていまして…」
なるほど…
だから、木綿は家族４人で
遊びに来たことがあると話していたのか。
「元々この公園はこの場所に
あったのだそうです。
そして、後から周りを囲む様な形で
建物が並び始め…今のこの状態に至った
ということなんだそうですよ」
まあ、そういうことなら筋が通っている。
実際にあり得なくはない話だろう。
「まあ、昔話はいいさ。
それより、早く捜すぞ」
木綿が早く例の少女を捜す様に促した。
「分かってるって」
「……うん」
「お兄ちゃんはせっかちですね」
僕たちはリーダーの言葉にそれぞれ答えた。
路地裏へ入ると、月明かりさえも
当たりにくくなり、暗さが増した。
そんな中で木綿が僕に指示を出した。
「時雨、特徴はどんなだ？」
「フードを被っていて、
左目が紫色、右目は前髪で隠れてた。
そして手にはサイコロを持ってた…かな」
「うん、じゃあしっかり目を凝らして
捜すんだ。
あ、でもこれだけ暗いと迷子になるから
全員離れないように気をつけて」
木綿がそう言うと、全員頷き、
黙って少女を捜した。
―――なかなか少女は見つからない。
ふと手元の新聞に目をやると、
いつの間にか５月に入ってしまっていた。
そう言えば、満開だった桜が
いつの間にやら葉桜になっていたな…
そんなことを考えながら新聞をしまった時、
自分の目の前に"それ"は現れた。
現れた"それ"は無表情でありながら、
威圧的な雰囲気を放っている。
「―――やっと会えたね。
私は"運命を司る者"さ」
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作者名：雨音 時雨 | 作成日時：2021年2月26日 0時
