朝が来ない世界ならば― （29） ページ29
―――遠くからの二人の足音は、
弾むように、楽しげに
ゆっくりと近付いて来る。
「おーい、強くなって参ったぞー」
「ははは……」
楽しそうに声を掛けてくる時雨と、
その隣で苦笑いをする木綿が
手を繋いでいた。
ただ、それを見て少しだけ…
ほんの少しだけだけれど、
口ではとても言い表せない感情が
僕の中で渦巻いていた。
「あ、皆さん揃いましたね〜
こちらも丁度終わったところですよ」
二人に気付いた雨下が声を掛けた。
「ああ、雨下たちも終わ――――っ…」
雨下の声に答えようとしていた木綿の
言葉が詰まった。
僕の心を読んでしまったのだろうか、
木綿はその瞬間に顔を歪め、
咄嗟に時雨と繋いでいた手を離した。
そして、そのまま時雨から
逃げる様に距離をとった。
僕は何だか申し訳無くなってしまった。
そして、木綿の能力が可哀相になった。
だって、言われなければ分からない心情が
分かるってことは、
配慮する必要の無いところでも
相手を思えば配慮してしまうのだから。
「…ちなみに僕は離れている生き物とも
話せる様になったよ。
時雨たちは…どうだった？」
僕は場の雰囲気を戻そうと話を投げかけた。
「あ、ああ…僕は心を読むスピードを
速くして、あまり体力を消費せずに
能力を使える様になった。
時雨は見たい未来を意識して見て、
能力をコントロール出来る様になった
けど、体力の消費量は
他の５倍くらいだね」
木綿は言い終わると少し考えてから
もう一度、閉ざした口を開いた。
「つまり、時雨の能力は本当に使いたい時
だけにしないと、時雨の身体に
かなりの負担が掛かるから、
情報集めの最終手段にするべきだ」
「そうですね……お兄ちゃんの言う通り
かも知れません」
そう言いながら雨下は時雨の方を向き、
尋ねた。
「時雨さん、特訓中に見た未来は
何ですか？
情報として頭に入れておきたいので」
時雨は記憶という名の引き出しを
探るように説明した。
「フードを被った謎めいた少女が今後
仲間になるって。
その子はサイコロを持っていて、
『三つ葉公園』近くの路地裏にいた」
「三つ葉公園の場所は
地図で説明するよ。
まずは地図を探して来ようか」
―――全員の中で始まりの合図が鳴った。
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作者名：雨音 時雨 | 作成日時：2021年2月26日 0時
