朝が来ない世界ならば― （28） ページ28
なんだか『ごちゃごちゃ言わないっ！』とか
どこか雰囲気が木綿に似てる。
流石は兄妹と言ったところか……
そんなことを考えて居ると、
雨下が指摘してきた。
「雨打さん、触れずに話せる様にするのを
目標にはしていますが、
最初のうちは近い距離で、出来る様に
なったら距離を離していく様に
したらいいですよ」
「…そうだよね」
僕は適当に答えてから、
目の前に居た狐との距離を少し縮める。
一歩、二歩……三歩………
狐との距離が１ｍ程になったら、
大木でやっていた様な感じで
力を送った。
―――その訓練は２、３回程で終了となり、
もちろん僕の能力は上がった。
離れたところの動物とも
話せる様になった。
「雨打さん、正直言って凄いです。
私だって特訓はしましたが、
４年もかかったんです。
４年前から、つい最近。
なのに雨打さんは、この短い時間で
力を付けたんです。
だから、あなたはとっても凄いと
私は思いました」
僕は雨下も自分と同じで口下手な方だと
思っていたけれど、
めちゃくちゃ褒めて来るし、
やたら長く話して来てるし。
だから……頑張らなきゃ。
能力だけじゃなくて、
コミュニケーション力も。
話によれば雨下は４年前から少なくとも、
毎日人と関わるなんてことは
一切無かったはずだ。
僕がそんな状況になったら今頃は、
言語を全て忘れてしまっているだろう。
………やっぱり、雨下は凄いや。
そんなことを考えながら雨下を見ると、
雨下は話を切り替える様に
手を一度叩いて、言った。
「では雨打さん、あのお二人と
合流………しましょうか」
僕はコクリと頷くと、視線を手元の
新聞に落とした。
木綿から貰っておいた新聞だ。
今はもう４月２１日だ。
あれから結構な時間が経ってる…
にしても、お腹すいたりして無いし、
やっぱりその点に関しては時が止まっている
からなのかな…？
でも、やっと会えるんだ。
時雨に。
――――遠くから仲良く二人が歩いて来る
その足音を僕だけは聴き取れていた。
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作者名：雨音 時雨 | 作成日時：2021年2月26日 0時
