朝が来ない世界ならば― (23) ページ23
二人で涙が出るまで笑った後、
ふと沈黙が訪れた。
「……あのさ」
「何だい?」
僕は木綿に訊いてみたいことがあった。
「木綿も昔は雨下と仲良く
暮らしていた……んだよね」
「ああ……そうさ。
4年前のあの日まではね」
木綿は空に浮かぶ月を見上げて言った。
「実は僕も…弟が居てさ……
それで……あの………―――っ……」
気が付けば僕は1人小さな子供の様に
泣きじゃくっていた。
「ううっ………ご…ごめん…………」
すると、俯いていたし、視界が涙でぼやけて
表情が見えなかったが、
ふと自分の頭の上に優しく手を乗せられた
様な温もりを感じた。
「………時雨、いいよ。
無理して言わなくても、
僕も痛い程に分かっているからさ」
上から木綿の声が聞こえた。
「どうして―――」
僕がそこまで言いかけたところで
また木綿が僕の言葉を遮って言った。
「辛い……とても辛い過去だったんだろう?」
そのたった一言が悲しくも嬉しくもあった。
そうだ、辛かった。
弟の雨打と生き別れてしまって。
両親には、何もしていないのに
突然、突き放されて。
引き取られた先でも、親戚だというのに
気味悪がられて。
何よりも辛かったのは、
それを知っていながら無視したり、
理解しようともしてくれない人たちだった。
傍観者は無関係じゃない、
むしろ被害者から見れば
見て見ぬ振りをした人々は皆、
加害者だというのに。
―――けれど、今。
木綿は僕たちの過去の辛さや悲しさを
理解してくれた。
それが、嬉しかった。
そして、更に色々な感情が胸の奥底から
込み上げ、僕の2つしか無い目から
熱を帯びた涙が溢れ出した。
―――僕は涙を拭って、もう一度口を開いた。
「でも、言っておかないとダメだから…」
すると、木綿は僕の頭の上に置いていた手を
離して小さく微笑んだ。
「時雨、君が大丈夫なら話して」
僕はコクリと頷いて話し始めた。
「―――僕には生き別れた弟が居るんだ」
木綿は僕の声にそっと耳を澄ました。
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作者名:雨音 時雨 | 作成日時:2021年2月26日 0時