朝が来ない世界ならば― （17） ページ17
どうやらこの森、先が長そうだ。
―――この５分間、森の入口から入って
速歩き気味で歩いて来たけれど、
全くと言っていいくらいに風景に
変わりが無い。
あれ……でも、確かここの辺りに木綿は
よく来ていたはずじゃ……？
「…ねぇ、木綿」
「ん？」
木綿が不思議そうに僕を見上げた。
「何だい？」
「いや、確か今捜してる妹さんと一緒に
小さい頃はこの辺りに
よく来てたんじゃ…？」
すると、少し顔を顰めてから小さく頷き、
しばらくして明るく顔を上げた。
「ああ、それね！
言い難いんだけどさぁ、
小さい頃、この辺りに詳しかったのは
妹の雨下だけで、僕は毎回手を引かれて
ついて来てただけだよ」
そして、１度も見たことが無い程の
自然で優しさに溢れた表情をし、
木綿は何か遠い記憶に想いを馳せるように
満天の星空を見上げた。
そうすると、２人にも聞き取れない様な
小さな声でポツリと呟いた。
「―――雨下…必ずお兄ちゃんが………今…―――」
ただ、その優しい瞳の奥に
辛い過去への強い意思を感じられた。
―――そう、それは……まるで僕のようだ。
―――木綿がハッとして振り返った。
「あ、ごめん。ぼーっとしてたや。
先を急ごうか」
すると、珍しく雨打が問い掛けた。
「………でも、その雨下の容姿も性格も
僕たちは話を聞いただけでイメージが
掴めない………」
「あぁ、それなら大丈夫だよ。
一応、昔の写真を持って来ているからね」
「あの……よく『学校になぜこんなもの――』
とか言ってますけど…？
その写真も毎日学校に持って行ってた
ってこと？」
僕がそこを突くと、どうやら図星だった
らしく、木綿は慌てて言い訳をした。
―――そんな会話をしながら、
木綿の妹を捜して半日くらいはしたの
だろうか…
森の中心辺りに森１番大きい木が
生えており、自然とそこへ向かった結果、
そこで木綿の妹だろう人物が
待ち構えていた。
「―――お兄ちゃん、遅かったですよ！」
初めて聞いたその声色は
温かく、とても優しい声色だった。
木綿と似ているところと言えば、
髪のサイドに２つずつ寝癖の様にはねている
癖毛があるのと、目や髪の基本的な
色が緑に近いことだ。
―――そして今、新たな歯車が回り始める。
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作者名：雨音 時雨 | 作成日時：2021年2月26日 0時
