アンダルーサ ページ10
天才の檻。
人々がそう言い始めたのはいつ頃であったか誰も知りはしない。
人は必ずしも何かに長けている。大きかれ小さかれ、その恵まれた才能を育て達人の域にまで達した人を天才という。
そんな天才たちが収容…言葉を選ぶと天才たちが暮らしている辺鄙な屋敷に一際目立つ少女が1人いる。
九都姫。
屋敷の主人の孫であり彼女もまたある一種の天才でもあった。
狭い世界に何人もの若者が住んでいるが、人生を「楽しい」と思えるほどの出来事はない。
仰ぎ見れば憎らしいほど空は青く穏やかな日であった。
都姫の膝の上の本のページが風で煽られ勝手にめくられる。
目を閉じて風なんて感じてみる、ふりをする。
しかしその穏やかさは突如として大きな銃声によってかき消された。
「今の音は…？！」
中から男女関係なく悲鳴が聞こえる。
その悲鳴が遠くなるのを感じれば自分は逃げ遅れたのだと察した。
パァンッと物騒な銃声がもう一発鳴り響く。
「このガラス、やっぱり特殊に出来てんじゃあねえか」
場に合わぬ呑気な男性の声に驚き、都姫は小さく悲鳴をあげた。
その悲鳴に気付き長身の男は都姫に近付いてくる。
「そーう、構えんなって。殺したりはしねえよ」
「バルサ様、少女が怯えております！」
「仕方ねえ、銃声なんざ聞いたら驚くのが普通の人間の反応だろうが。しかし困ったなァ。そこのお前、俺はここの主人に様があるんだけどよーォ？どこにいるか教えてくれねえかなあ」
「…お断りします。お祖父様に何をなさる気ですか」
「何をなさるって。俺は一応仕事で来てるんだがよ」
愛用のハンドガンをポケットに入れながらバルサと呼ばれた男は都姫の姿をまじまじと見つめた。
「どっかで会った気ィがするんだが」
「私は存じ上げません」
「だよなあ、そっくりさんかもしれねえしなあ」
すると男はしゃがみ都姫のお気に入りのラジカセをいじり始めた。
「何をされてるのですか」
「いや、こいつァ良いなあと思って。こう見えてピアノをしていたんだ、今よりずっと幼い頃に」
「…」
「意外ですって顔してんなァ」
屈託のない笑顔でボタンをカチカチと押す。
何か目当ての曲がある様子だ。
「おーこれこれ。知ってるか？」
「…アンダルーサですか」
「そうそう。スペインの舞曲ってやつだが、こいつが好きでよ」
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作者名：塩味 | 作成日時：2019年1月27日 19時
