ひなみの恋 ページ6
数ヶ月前。
「はぁ〜い、こっち向いて向いて」
のんびりとした声がアイドル達を振り向かせる。
九井陽南はレフカメラ片手に何人も集まった男性アイドル達の写真を何枚も撮っていた。
皆、思い思いのポーズをし輝かんばかりのオーラを放ちながらカメラへと視線を向けている。
しかし1人、日陰で不機嫌顔のアイドルが1人いた。ひなみも先程からその青年が気になっていたのだが中々とっつきにくそっとしている。
もしかして一枚も撮らず帰るんじゃなかろうか。
そんな不安さえ覚えてしまう。
(だめだめ、そんなんじゃカメラマン失格!)
ひなみは勇気を振り絞って不機嫌顔の青年へと声をかけた。
「ちょっと、体調が優れないんですか」
突然声をかけられ青年はゆっくりと顔を上げる。まさか声をかけられるとまでは思っていなかったらしい。
「まだ一枚も撮れてませんよ」
「それで構わん。いかにも撮られたいって顔の奴らだけ撮っていればそれで良いじゃあないか」
そしてまた次は携帯へと視線を移す。
もうすでにひなみのことなど視界に入ってない様子だ。
不可抗力ではあったが携帯の画面を見てひなみは「げっ」と声に出してしまった。
連絡先のほとんどが女子である。
その声にピクリと反応した青年はさらに眉根を寄せて不機嫌な顔になった。
「まだいたのか。あっち行け、あっち。しっしっ」
人をなんだと思っているんだ。そう反論したくなるほどに手で追い払われる。
これなひなみと青年…悠馬の最悪な出会いであった。
そして現在。
時間はかかったが悠馬はひなみへと心をかなり許し喋ってくるようになった。
あの大人数の女の子のうちの1人なのかもしれない、と思いひなみは微かな恋心は奥にしまい込んだ。
見込みがなさそうだからだ。
良い人ではないしひなみが思い描く理想のタイプとは大幅に外れていた。
王子様なんて到底言えるような人物ではない。爽やかさのかけらもない、そんな男だったが、不器用ながら優しくしてくれることに惹かれていったのだ。
だが言ってはいけないと、口を滑らせないように毎日気をつけた。滑らしたとしても鈍感な悠馬には伝わりはしないかもしれない。
「いつぶりだろ、こんなの。…ゆーまはどんな女の子が好きなのかな」
強気な子?可愛い子?考えても分からないし聞いてもぽかんとした笑顔で首を傾けそうだ。
冷たい雨が降り注ぐ今朝の空を見上げながら、ひなみはため息をついた。
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作者名:塩味 | 作成日時:2019年1月27日 19時