兄 ページ45
「！」
雪那は目を丸くして驚いた。
少々やりすぎた、と今更思う。
(だかまあこいつは…)
「おいコラァッ！」
雪那は踏み出した足を引っ込め驚きながら後ろを振り向いた。
普段全く怒らない源河がものすごい剣幕でキレている。
大方、兄はプライドが高いため汚されたことやこの今の姿にキレているのだろう。
そうだと思った。
「相手がうぜえと思っても、けど道を教えてもらう、これは１つの親切だ、手を出すな！」
またしても雪那は目を見開いたまま固まる。
人としての常識、とるべき行動を教えられているのだ。
ただの溺愛、狂愛ではなく。
ひとりの歳上、兄、保護者の目だ。
怒っているのではない。
自分のために"叱っている"。
雪那は流石に目を伏せた。
今回は悪いと思ったのだ。
「お前がそういう性格なのは知ってる。けど、これは他の人には通用しないから。手を出すんじゃなくてちゃんと言葉だけで伝えなくちゃだめだから」
それでも、雪那は目を合わせず逸らし続けた。
源河はため息をつくと頭をポンポンと撫で「きつい言い方してごめんって」と言い小遣いを握らすと先に行ってしまった。
プライドの高い源河だ。
本当は私情でキレたかっただろう。
何をしてくれたんだお前！と。
他の奴がしていたのなら多分その人は半殺しにされる。
彼は雪那に甘すぎるのだ。
しかし今の叱りも朝の包帯のしかえも自分が弟だからだと思う。
血の繋がった弟、と思っているからだと。
もし血が繋がっていなかったら？
弟じゃなかったら？
目の前の男はどうするのだろう。
雪那はその時ぞわりと寒気がした。
寒気の原因は失うことを恐れた自分だ。
「…………に、き」
掠れた声で無意識に手を伸ばす。
小さい声にも関わらず源河は振り向いた。
その表情はとてつもなく、それは雪那が今まで生きてきた中で最も優しい表情だった。
叱られた後の温かみをこの歳でようやく知ってしまう。
「反省した？」
柔らかく笑みを浮かべる源河に舌打ちをならし
「反省することねえし」といつもの通り睨んだ。
「顔にはごめんなさいって書いてるよ」
思わず雪那は顔を触った。
その姿に源河はくすくすと笑みをこぼす。
雪那は殺意こもった目で睨み続けたが源河に効くはずがない。
すると、大きな手が差し伸べられた。
「おいで、雪那。朝ご飯、何食べたい？」
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作者名：塩味 | 作成日時：2019年1月27日 19時
