真のアイドル ページ5
望月美悠紀は現役アイドルながらアイドルへの情熱が今ひとつない。グループには入っておらずソロで活動をしているのだがそれ以外でも事務仕事をするサラリーマンでもある。
過労でいよいよ倒れそうな連勤38日目、美悠紀は煙草を吸った後に倒れそうな体を引きずるように楽屋へと戻った。
差し入れなのか、机上にドーナツの箱がある。
パッケージは女性が好みそうな可愛らしいデザインであり中に入ったドーナツもカラフルだ。
少し眉根を寄せながらも疲れた体は糖分を欲しており手は勝手にドーナツへと伸ばされていた。
一口食べるだけで美悠紀はあまりもの甘さに「オエッ」と吐きそうになる。
「甘えなァ…」
ちょうどその時、扉がノックされ引きつった顔のまま「どうぞ」と声をかける。
躊躇いなしに開かれた扉の前に立って居たのは…
「すいーつ☆めるしんぐの神谷秀星です。今日の収録同じや聞いたんで、挨拶に来ました。よろしゅう頼んますいうことで…あ、それ、食うてくれたんですか。どうです？」
関西出身の独特の方言に押され気味ではあったがふとドーナツに振られ視線を箱へと向けた。
箱には神谷と名乗る青年と他男子数名がのってあり、コラボ商品と理解出来る。
「美味しくいただきました、ありがとうございます」
「んなこといわんでも、正直に言うてくれてもええんですよ」
一口で置かれたドーナツに目が行ったのであろう。さすがは最年長メンバーといったところか、周りをよく見ていると感心した。
「いえ、お心遣い感謝致しております。疲れた体にはやはり甘いものが美味しく感じますね」
「俺の方が歳下なんですけど、えらい気ィ使われとるような気がしてならんのですけど。俺はそのドーナツ甘すぎてちと好みじゃあないんですよね、はは」
(よく喋るな、こいつ)
1人軽やかに声を立てながら笑う神谷に少し引き気味の美悠紀は一歩下がり距離をとった。
「意外でしたよ、すいめるに所属されている方は…」
「もっとほわほわしたやつ〜とか思ったんちゃう？」
「ええ、まあ…砕いて言えば」
「せやろせやろ。あんま性に合わんとは思うんですけど、やっぱりダンスは楽しいし、アイドルは続けたいんや」
目を輝かせながらダンスへの熱を語り出す神谷を一瞥した。
「望月の兄さんはあんまり興味なさそうやなー、すみません熱く語って」
しかし美悠紀はこの時すいめるの真の力を知らずにいた。彼らの人柄が生み出すパフォーマンスを。
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作者名：塩味 | 作成日時：2019年1月27日 19時
