君はお姫様 ページ31
天才の檻、そう呼ばれるこの館にて都姫は狭い、実に狭い世界で生きてきた。
当然生活が苦しいわけでもないが圧倒的に 自由 が欠如しているこの世界。
周りの人は何かしら難を抱えながらも良い人も多い。勿論、変わり者がほとんどだが自分も変わり者のうちの1人なのだと理解はしている。
今日も中庭から壁の向こう側を夢想しながら本を読み耽る。
そろそろ読書に飽きたころ、高く透き通ったソプラノの歌声を響かせた。
私を許して下さい
今日もあなたに会いたいと願う
離れないと誓って
笑顔を見せて
高さの中に芯があり、また歳不相応な哀愁が漂う声音である。
歌詞と自身を重ね感極まり泣きそうになる。
「外の世界に…」
花畑に体を吸い込まれるように仰向けに寝そべり青空へと手を伸ばす。
その瞬間、都姫の小さな手は大きな手によって包まれ大きな影が重なった。
「外の世界にお連れしに来ました、お姫様」
聴き覚えのあると顔に都姫は大きく目を見開いた。
「アレク…！」
アレクと呼ばれた男、アレクシスは白い歯をのぞかせながらにやりと笑った。
「よーォ！元気そうで良かったぜ〜。非番だから来てみたんだがよーォ、相変わらず辛気臭い場所だなァ。おめーの面も」
放っておいて下さい、と都姫は不満気に軽く睨みながら顔をぺたりぺたりと触りながら確認する。
「ですが、アレク。外の世界へお連れするとは。本当ですか？」
「俺は嘘をつかねえ。マジだ」
「しかし、許されないのです。外の世界へ行くことは禁じられています」
「そりゃあここに決まりであって家の外に出るななんて法律はこの国に存在しちゃあいねえよ」
「…見つかれば貴方もただではすみません。危険です…！」
必死な彼女の顔を困り気味に眉根を寄せた。
腕を組みながら必死に考えているようだ。
「やっぱり今の代を…」
「すぐに人を亡き者として解決しようとしないで下さい！」
「じ、冗談だろ〜？！」
「冗談には聞こえませんでした」
全てを見透かされそうな瞳から、アレクシスは目を逸らした。
「時期尚早、かな」
「？」
「あの後踊りはちゃんと出来るようになったのかい」
「いえ…一人では無理ですよ」
「う〜〜〜〜ん、じゃあ時期尚早だ」
「？？」
そういうと、パンッと自らの太ももを叩き立ち上がると何やら大きな鞄を開け中から何かを取り出した。
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作者名：塩味 | 作成日時：2019年1月27日 19時
