禊火 ページ4
白星は粥を振舞いながら春州と名乗った青年から様々な話を聞いた。
俗世から離れて暮らしてはいるがなかなか興味深い内容ばかりを話してくれた。
無愛想と思った彼は案外温かい心の持ち主で包容力があり、何にせよ真面目な男であった。
部屋に置かれた和紙で折り紙したり、簡単な手品を見せてくれたりした。
白星が真似して何かをしようとした時は優し気に微笑みながら見守り時折手を差し伸べてくれたりする。
遠に人と関わりを断ち疎み続けてきていたが久々の人間の温もりに白星自身心地よさを感じずにはいられない。
いつのまにか外の雪は雨へと変わっている。
二重布団を敷き白星はすっぽり目元までかぶった。
春州は地べたでも平気だと座布団を枕にして白星の隣へと寝転んだ。
囲炉裏の火が彼の顔を照らし近くに感じる呼吸に白星は掠れた声で語りかけた。
「もうしばらく、ここに居ぬか」
「…」
「寝たか」
ふと白星は笑みをこぼし寝返りを打つ。
彼への興味が、知りたいという思いが胸を締め付けた。
胸に痛みを抱いたまま白星は眠りへと落ちた。
翌日、朝日が昇る前に目を覚ました白星は隣の座布団の上に僅かな礼だけが置かれており春州がいないのに気付いた。
高下駄履かずに急いで扉を開けると前方に黒ずくめの青年が歩いている。
「はるくにっっ!!」
凛とした声に春州は振り返り生真面目な顔で手を挙げた。
声は小さかったが「ありがとう」と言っている様だ。
「またいつでも帰って来るといいからな!」
白星は懸命に手を振る。
それを見た春州はニッと口角を上げ身を翻して早々と立ち去っていった。
白星は家に戻ると茶をゆっくりと飲んだ。
窓の外から見える窓は雨の雫で濡れている。すっかり晴れ、日の光が部屋の中へと差し込む。
いつ見ても綺麗な景色に白星は目を細めて空を見つめる。
「良き天気だな。見ておるか、春州よ」
小さく呟き、一筋雫が膝へと零れ落ちた。
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作者名:塩味 | 作成日時:2019年1月27日 19時