切ない思い連ねては ページ23
「バレンタインだろ、今日」
バレンタインという単語に源馬は嫌悪の表情を見せた。
もとより友人がおらず、女性とも付き合いがない彼からしたらバレンタインはもはや敵なのだろう。
「事務所から甘味大量に寄越されただろ」
「そんなことないよ。じゃが○ことか、ポテ○とか、カラムー○○とか、塩辛いものや刺激物ばかりだった」
「そりゃお前のファンがお前の好み把握してるからだろ」
納得したような納得してないような、どっちつかずな顔で頷く源馬に、空豆はため息をつく。
「板チョコはよ、俺からお前への義理。いつもありがとうって意味だな」
「…」
「何だよその顔」
「いや、本命じゃないのかと思ってね」
くす、と源馬が笑みをこぼす。完璧なその笑みは空豆が求めていた笑顔ではなかった。
「返せ」
「…え？」
「要らねえなら返せっつってんだ」
空豆は源馬から板チョコを奪い返そうとする。
「どうしたんだい、急に」
空豆は手を伸ばすも源馬の長い腕には届かない。
ふと源馬は空豆の顔を覗き見たが。
空豆の顔は真っ赤だった。
「空豆君。こっち向いて」
おそるおそる赤く染まる頬のまま顔を上げた。
「からかって悪かったよ」
素っ頓狂な返事がまたもや帰ってきた。
「やっぱ返せてめー！！」
「嫌だ、これは僕のなんでしょう」
源馬は豪快に袋をちぎれば板チョコにかじりついた。口の周りにチョコをつけながら屈託無くガキ大将の様にニッと笑う。
その瞬間、胸が高鳴り鼓動が早くなるのを感じた。
(…嫌だ、とまれ、止まれ…！)
「来年は本命をくれたら嬉しいんだけど」
そう冗談めかしながらチョコを頬張る。
(…今年のそれが本命だよ、クソ源馬)
内心愚痴る様に呟けば思いを押し殺す様に唇を噛み締めた。
苦しかったが、何か心が温かくなるのを感じた。
(食べ方、案外食べっぷりいいし男臭いな)
今日はこれでよかったらしい。
(新しい発見も出来たしな。来年はお望み通り激辛にして泣かせてやるよ)
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作者名：塩味 | 作成日時：2019年1月27日 19時
