切ない思い連ねては ページ22
次の日の放課後。
(ついに買っちまったー！！で、持ってきてしまった、朝買った、板チョコ)
長いツインテールの髪が風に揺れる。
何食わぬ顔でカバンの中を漁れば何も包装されていない無機質な板チョコが入っていた。
空豆はというと他の生徒たちに源馬の目撃情報を聞き出し、今、職員室の前にいる。
中から教師が源馬と、源馬が出演している映画が受賞したということで祝いの言葉を投げてる声が聞こえた。
しばらく経って、源馬がようやく職員室から出てきた。
「げ、げんまっ」
空豆は咄嗟に源馬の腕を掴んだ。
源馬は「何？」と振り返る。
「いー、一緒に帰ろうぜー…」
「？構わないけど。僕は図書館に行くから一つ目の交差点までね」
「お、おう」
空豆はふと思った。今頃源馬の事務所は源馬宛のチョコが大量に送られているのだろうと。
帰路にて、そんなくだらないことを考えていたから、長い沈黙が続いた。
そして何ヶ月分かの勇気を振り絞り空豆はカバンから板チョコを取り出し、彼の目の前にそれを見せつけた。
「いらねえからやる」
「僕も要らないよ」
「…は？！」
「チョコレート、好きじゃないんだ」
この時空豆は最大の失態に気付く。たしかに源馬は甘味は餡子派だし何より刺激物や香辛料が好きだった。チョコを食べている姿を見たことない。
「…じゃあ、よ。俺からって言ったら受け取るか？」
「？そりゃあ、君からなら」
「そうだよ、俺からなんだよ。義理だぞ？！分かってるな？！義理だからな！」
空豆は板チョコを押しつけながらちらっと源馬の表情を見てみた。
「？？そんなに強調しなくても、分かるさ」
キョトンとした顔をしている。何を当たり前のこと言ってんだ、と言いたげな顔だ。
その時、空豆は胸の奥の違和感に苦しさを覚えた。
「しかし、君らしい選択だね。飾り気がない」
「お前、チョコより…餡子の方が良かったんだよな」
「あれ？」
「何だよ」
「何で僕にチョコをくれるんだい」
ズコーッと擬態語が出そうなほどにこけそうになる。
彼の鈍感さはもはや芸術の域に達しているし、今日はただの平日と思っているあたり寂しい人間だ、いわゆる非リアの域にある。
「差し入れ…？ああ、受賞祝い？」
「…今日は何の日だ」
「…………」
源馬が首を傾げながらソシャゲアプリを開こうとする。
「お前の推しキャラの誕生日でもねーよ！！」
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作者名：塩味 | 作成日時：2019年1月27日 19時
