切ない思い連ねては ページ21
女性たちの黄色い声援の中悠々と登壇した青年が1人。
必死に手を振る女性たちに、青年は爽やかな笑顔で手を振り返す。
「映画『空を見上げれば君が隣にいる気がした』、主役の声を担当致しました白宮源馬さんのご登場です！」
司会者の紹介に会場はさらなる盛り上がりを見せる。
「皆さん、お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。この作品はいかがでしたでしょうか」
源馬は笑顔で語りかけ、女性は個々の思いをそれぞれ口々に述べた。
カメラのフラッシュ、数多の記者とファンに包まれながら舞台挨拶が始まる。
場慣れした彼は堂々とトークを広げていく。
皆源馬のことは爽やかな優男という評価をしているだろう。
しかし舞台挨拶の中継を見ていたクラスメイト…具体的に言えば最近仲良くなり友人となった空豆蒼太は眉根を寄せた。
「相変わらずうさんくさいな。よく騙されているぜ、世間は」
「え〜なんでよ、かっこいいじゃん」
隣の妹、蒼葉はスマホで源馬の笑顔を連射していた。
「でもさぁ、お兄ちゃん」
「何だよ」
「明日バレンタインだよ」
「だから何だ」
「あげないの？」
「俺は男だしそもそも男子校だぞ」
「源馬くんにあげないの？」
妹の思いもよらない言葉に飲んでいたミルクティーを盛大に吹き出した。
「男は友チョコなんて変なことしねえよ！」
「は？本命でしょ」
「本命！？」
「ってのは冗談だけど。お世話になってるんだったらあぜなよ」
空豆はその日ベッドに入っても眠れなかった。妹の冗談が冗談に聞こえない。ずっと頭の中でリピートされているのだ。
(そうだ、義理だ。義理でいい。進物や粗品、そんな風にであいつにチョコを渡せば)
掛け布団をぎゅっと握りしめふと自分の発言に違和感を覚えた。
(いやチョコじゃなくていいだろ！？何意識してんだよ、俺…相手はあの気持ち悪いうさんくさいアホな源馬だろ？)
ふと、源馬の顔が脳裏で過ぎる。
時折自分だけに見せる甘い声と表情に無意識に頬が熱くなる。
(あいつは俺の友達だ)
だんだん疲れてきた空豆はそのまま考えることを放棄し、泥のように眠りこけた。
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作者名：塩味 | 作成日時：2019年1月27日 19時
