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57. ページ16

瞬間、俺は走り出していた。


何が起きているのか自分でもわからないほどに、本能的に、野心的に駆け出していた。


自分の身体を抑えることが出来ないなんて、初めてだ。心が頭より前に出るのも、心臓がこんなに忙しくするのも。


気持ちだけが自分の数歩前にいるような、そんなもどかしさで一杯だった。今、あそこへ向かわなければいけない。今、真実を確かめなけれないけない。そんな使命感に、必死に足を動かす。


それでも、頭では別のことを考えていた。いや、映し出していた、という方が正しいのかもしれない。


頭の中で、俺は夢を見ていた。
いつの日か見る、あの夢だ。


暗い部屋に独りで寝かされ、寂しくて怖くて、柄にもなく大声で俺は泣いている。
今ならその布団の冷たさまでもが、肌を突き破ってくる気がした。


すると、ガタッっと大きな音をたてて光が差し込んでくる。思わず目を細めてしまうほどの、眩しくて白い光だ。


その音にまずビックリして、それから久しぶりに見た月明かりの明るさと、あまりの綺麗さにビックリして、いつしか俺は泣くのを忘れているんだ。濡れた視界に月がさして、宝石みたいだ、なんて思ったりして。


そうすると、襖の音に反して静かに誰かが近付いてくる。父と似ているような呪力で、でも、父と違って優しかったかもしれない。


まるで息をしていないような静けさで、俺は再び泣き出したくなるのを堪えてじっと、その影を見つめ返す。暖かい瞳と、視線が交わる。


すると、綺麗だな、お前、とその影が口にしてふっと綻ぶ。あとになると声が思い出せないのに、確かにそいつはそう言っていると断言出来る。やわらかくて、上機嫌で、もっと聞きたいと思った。相手が、困ったように笑った、ように見えた。


不思議だが、顔も知らないその影が笑うのが俺は嬉しくて、その影に必死に触れようとする。母にも呼ばれたことのない声音で、悟、と俺の名前がふとよぎった。


影は温かいだろうか、柔らかいだろうか。きっと俺より温かいに決まってる。温かかったら、いいな。そんな風に考えながら、いざ触ろうとしたその刹那。


「また逃げるのかよ」

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設定タグ:呪術廻戦 , 五条悟 , 男主   
作品ジャンル:アニメ
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砂漠 - エレナさん» ありがとうございます!そう言って頂けるととても励みになります(●︎´▽︎`●︎)これからも楽しみに思っていただけるよう頑張るので、ぜひ最後までお付き合いください、、、(_ _*)) (2022年4月2日 11時) (レス) id: c817577711 (このIDを非表示/違反報告)
エレナ(プロフ) - この作品大好きです!続きが楽しみです! (2022年3月26日 21時) (レス) @page16 id: 806542db6b (このIDを非表示/違反報告)
砂漠 - お餅さん» まーたやりました。今日何回目ですか、私!!1個下のコメントはお餅さんへの返信です、、、失礼しました、、、お餅さん、コメントありがとうございました✨ (2022年1月1日 15時) (レス) id: c817577711 (このIDを非表示/違反報告)
砂漠 - コメントありがとうございます!ご期待に添えるよう、更新も頑張っていきたいと思います٩(ˊᗜˋ*)و最後までお兄ちゃんを応援してあげてください(_ _*)) (2022年1月1日 15時) (レス) id: c817577711 (このIDを非表示/違反報告)
砂漠 - あいすくりぃむとちょこれぃとさん» いや、私もタイトルとの温度差は感じていたんですよね、、、ですが地獄を見たというお言葉に笑ってしまいました😆最高の褒め言葉ありがとうございます!お兄ちゃんには幸せになって欲しいですね、、、頑張ります🔥 (2022年1月1日 15時) (レス) id: c817577711 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:砂漠 | 作成日時:2021年12月11日 11時

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