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「すっごー…兄ちゃん、動いてるよ…!」
惚けた顔で、悟が呟く。
俺の手を握る左手が緩んでいるのにも気付かないほど夢中な悟の様子に、意図せず笑みが零れる。
分けてもらった一匹を、極力揺らさないように帰路に着いた。これ以上の時間は悟に許されていなかった。
「それにしても、金魚すくいは中々難しいですね」
「いや〜、最初のうちはそんなもんだよ」
「でも驚きました。あんなに簡単そうにぽんぽん金魚をすくいあげるんですから。もしかして金魚すくいの才能があるんじゃないですか?」
「…金魚すくいは、昔に教わったんだ。コツとか色々ね」
「色々?」
「そう。例えば、屋台の金魚はストレスに晒されてるから一週間くらいで死んじゃう、とか」
右下から、えっという声が聞こえてくる。
「お前、一週間で死ぬのか」
僅かながらの残念さを滲ませた顔で、悟は金魚の袋をつついた。
「あぁこら、つついちゃだめだよ、悟。そうすると余計ストレスが──」
「──ふはっ」
突然吹き出したかと思うと、彼はお腹を抱えて笑いだした。
それがやけに大袈裟に見えて、何かを誤魔化そうとしているんじゃないか、と思った。
「ははは、はぁーあ、ほんとA、最高」
立ったままお腹を抱える体制から、肩で息をしながら顔を上げた彼は、目尻を拭いながら真っ直ぐに俺を見た。なにか、別の涙まで拭ったようにも見えた。
右手が、今まで以上に強く握られる。
「お前もちゃんと、兄なんだな」
さっきいた所とは違う、街灯があるだけの薄暗い道路。まだ遠くからお祭りの騒ぎが聞こえる。
彼は笑っていた。それはそれは綺麗に。寂しさや悲しさの、一切の欠片もほのめかさなかった。ただ純粋に。楽しそうに。
でもそれは、"楽しそう”であって"楽しい”ではなかった。
俺には、彼がただの迷子の少年に思えた。
祭りが行われている、明るくて温かいような世界から、この道路のような薄暗く冷たい、まるで寂しい世界に来てしまった迷子。
ふいに街灯がチラつく。一瞬彼の顔が影でいっぱいになる。なんだかそれが、彼が彼でなくなる合図みたいに感じて、俺は焦って彼の名前を呼んだ。
前に彼がしてくれたみたいに、俺も手を差し伸べたかった。
「行きましょう」
相変わらず作られたように綺麗な顔で、彼はあぁ、と言った。
「…だから僕には才能なんてないよ。ただのひとつもね」
彼が最後に放った言葉は俺たちの鼓膜を揺すぶることなく、どこかで鳴る太鼓の音にかき消された。
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砂漠 - エレナさん» ありがとうございます!そう言って頂けるととても励みになります(●︎´▽︎`●︎)これからも楽しみに思っていただけるよう頑張るので、ぜひ最後までお付き合いください、、、(_ _*)) (2022年4月2日 11時) (レス) id: c817577711 (このIDを非表示/違反報告)
エレナ(プロフ) - この作品大好きです!続きが楽しみです! (2022年3月26日 21時) (レス) @page16 id: 806542db6b (このIDを非表示/違反報告)
砂漠 - お餅さん» まーたやりました。今日何回目ですか、私!!1個下のコメントはお餅さんへの返信です、、、失礼しました、、、お餅さん、コメントありがとうございました✨ (2022年1月1日 15時) (レス) id: c817577711 (このIDを非表示/違反報告)
砂漠 - コメントありがとうございます!ご期待に添えるよう、更新も頑張っていきたいと思います٩(ˊᗜˋ*)و最後までお兄ちゃんを応援してあげてください(_ _*)) (2022年1月1日 15時) (レス) id: c817577711 (このIDを非表示/違反報告)
砂漠 - あいすくりぃむとちょこれぃとさん» いや、私もタイトルとの温度差は感じていたんですよね、、、ですが地獄を見たというお言葉に笑ってしまいました😆最高の褒め言葉ありがとうございます!お兄ちゃんには幸せになって欲しいですね、、、頑張ります🔥 (2022年1月1日 15時) (レス) id: c817577711 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:砂漠 | 作成日時:2021年12月11日 11時