陸ノ章ー兄弟なんて、馬鹿らしい ページ25
「なあ兄ちゃん、あれはなんだ?」
そう言われるや否や右に強く引かれる。
「兄ちゃん、あれおいしそう」
そう聞こえた途端左によろめく。
「兄ちゃん兄ちゃん!あれやってもいいかな!」
あれ、を認識する前に、気付けばもう並んでいた。
「さ、悟、ちょっと休憩しよう」
「並んでる間に休憩すれば良い」
「でもほら、荷物とか…」
「そんなの、アイツに持たせれば問題ない」
「は、はあ…」
俺たちの後ろにいる、アイツと呼ばれたクラスメイトの彼をちらりと覗う。
彼は無表情で屋台や行き交う人々を眺めていたが、俺の視線に気付くとにこりと表情を崩した。
「どうかした?」
「あ、いえ…少し持ちましょうか」
彼の両手には、焼きそばにたこ焼き、フランクフルト、ポテト。小脇には謎の光る剣を抱え、これまた謎の光るサングラスをかけている。これらは悟が欲しがったものだ。
当の本人は、右手にわたあめの袋をぶら下げているだけであるが。
「いいよ。Aだって、右手に大きな荷物抱えてるしね」
「あはは…」
苦笑いで返す他なかった。俺の右手には、小さな悟の左手が収まっていたから。
───
「僕もうお腹ぺこぺこ〜」
人の多い通りを抜けた俺たちは、適当な縁石に腰を下ろし、一時休戦とすることにした。
「兄ちゃん、これ食べたい」
先程の射的で小さいながらも景品を落とした悟は、上機嫌に焼きそばを頬張っている。
大通りから漏れてくる屋台の光と、お祭り独特の熱く、心が騒ぎ立てられるような空気。そんな空間に包まれた悟は、きちんと子供の顔をしていて、思わず安堵してしまう。自分の幼少期を鑑みて、きっと余計に。
そこではっと思い直す。
一時期前まで、自分が死んでも、誰かが死んでも、すべてどうでもいいと思っていた。そんな俺が、今安堵している。確かに、胸の温かみを感じるようになった。
それだけじゃない。クラスメイトと仲良くなれたことに嬉しさを感じているし、もっと彼を知りたいとも思う。
どうして?どうして悟に、幸せな幼少期を送って欲しいと思う?どうしてクラスメイトともっと話したいと思う?
「兄ちゃん?食べないのか?」
「冷めちゃうと美味しくないよ〜。って言っても、もう冷めてるけど」
突然気が付いた変化に、少し整理する時間が欲しかった。
「すみません、ちょっとトイレに」
そう踏み出した一歩は、やけに地面を強く感じた。
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砂漠 - エレナさん» ありがとうございます!そう言って頂けるととても励みになります(●︎´▽︎`●︎)これからも楽しみに思っていただけるよう頑張るので、ぜひ最後までお付き合いください、、、(_ _*)) (2022年4月2日 11時) (レス) id: c817577711 (このIDを非表示/違反報告)
エレナ(プロフ) - この作品大好きです!続きが楽しみです! (2022年3月26日 21時) (レス) @page16 id: 806542db6b (このIDを非表示/違反報告)
砂漠 - お餅さん» まーたやりました。今日何回目ですか、私!!1個下のコメントはお餅さんへの返信です、、、失礼しました、、、お餅さん、コメントありがとうございました✨ (2022年1月1日 15時) (レス) id: c817577711 (このIDを非表示/違反報告)
砂漠 - コメントありがとうございます!ご期待に添えるよう、更新も頑張っていきたいと思います٩(ˊᗜˋ*)و最後までお兄ちゃんを応援してあげてください(_ _*)) (2022年1月1日 15時) (レス) id: c817577711 (このIDを非表示/違反報告)
砂漠 - あいすくりぃむとちょこれぃとさん» いや、私もタイトルとの温度差は感じていたんですよね、、、ですが地獄を見たというお言葉に笑ってしまいました😆最高の褒め言葉ありがとうございます!お兄ちゃんには幸せになって欲しいですね、、、頑張ります🔥 (2022年1月1日 15時) (レス) id: c817577711 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:砂漠 | 作成日時:2021年12月11日 11時