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この雨の中、明らかに薄着なその男は

開いたドアから差し込む僅かな家の光で
ドアが開いたことに気づき

壁から離れ 女性に向き合うようにして立った


薄暗い玄関の光は男の首元までを照らし
その顔は薄暗い闇で見えなかった


その腕には、男の上着だろうか
布に包まれて目を閉じる子供がいた


どちらもこの雨の中で傘を持たずずぶ濡れだった


子供の存在に気づいた彼女は
慌ててチェーンを外した

「こんな雨の中で傘もささず…
詳しい事情は聞きませんから、
どうぞ中へ」


女性は自分が濡れるのも構わず、
大きくドアを開き2人を中へ導こうとした

しかし男はそれを断った


「僕は大丈夫ですから、どうかこの子を…」


男は自分の腕の中の子供を女性に差し出した
子供は寒さからか、小さく震えていた


「この子を助けてください」


暗くて表情は分からなかったが、男の手も震えていた

「ここは行き場のない子供たちを
守ってくれると聞きました

この子は親もおらず一人です

どうかこの子を、守ってやってください」


男はそこまで言うと、
半ば強引に女性に子供を渡した


思わず彼女は子供を落としてはなるまい、と
男の手から子供を受け取り

しっかりとその腕に抱え込んだ


冷え切っているように見えた子供は思いの外暖かく、
震えていたのは泣いていたからだと分かった


それとは対照的に
渡された時に触れた男の手のあまりの冷たさに驚いた

男は子供の親には見えなかったが、
子供と関係のある人だろうと思った


「でも、あなたがいるのではありませんか」


女性の問いに男は小さく首をふった


「僕はこの子の傍にいることはできません」


その声も震え、どこか悲しげに聞こえた

「どうして…」

男は答えず、
女性の腕に渡ってさらに泣き始めた子供の
頰を撫で、涙を優しく拭いた


男が子供に顔を寄せ何か囁いた


「ーーーーー」



その時一際大きな稲妻が落ちた


近かったのか、
続けてすぐにやってきた轟音に掻き消され

男が発した言葉を聞き取ることはできなかった


しかし稲妻の光によって照らされ、
一瞬ではあったが初めて見えた男の瞳を、

彼女は忘れられなかった



それはとても美しく輝き、優しい色をしていた




まるでーーーー

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作品ジャンル:ファンタジー
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作者名:shoyu | 作成日時:2020年3月2日 15時

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