ベンチで ページ22
少しずつ。
少しずつ。
公園の中を歩く。
ベンチに向かってゆっくり。
どきん。
どきん。
.
.
『あっ。』
.
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思わず小さく声が出る。
ーー…A？
『はるか…いるの。』
ーー…え？まさか先輩！？
『ちがう。』
ーー…？ じゃあ、誰が？
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『先輩の彼女さん。』
ーー…え？
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ベンチに腰掛けて。
ぼーっと、空を見てた。
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先輩の彼女さん。
今も続いてるかなんてわからないけど、名前知らないから。
こんな呼び方しか出来なくて。
昔はそのポジションが羨ましくて仕方なかった。
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ーー…A？大丈夫！？人違いじゃない？
ただ立ち尽くしてると、はるかが声をかけてくれる。
はっと我に帰った。
『あ、多分本人。』
電話しながら木陰に隠れる。
なんで？
ーー…いいよ、もう帰りなよ！！どうせ話したこともないんだし、ややこしいことになるだけだよ！！
『あ、うん。そうだよね…』
こそっと、もう一度あの人を見た。
ただ、ぼんやりと。
誰かを待ってるみたいに。
昔より綺麗になってる。
…当たり前か。
長い髪が風に揺れて。
ただ、空を見つめる目は昔と同じ。
綺麗な目。
その目がこっちを見た。
ーー…A？
目が合う。
ーー…A！！
『…っ！』
あの人の口が動きかけたのがわかったから。
私は逃げるように駆け出した。
ーまって！！Aさん！！ー
遠くで、名前も知らないあの人が私の名を呼んだ。
でも、でもっ！！
とまれないっ
あの人の幸せを私はー…
こわいっ
こわいっ…
振り返らずに、前だけを見て。
電話もただ手に握ったまま。
はるかが何か言ってるみたいだけど。
今は、耳に電話をあてれない。
息をするので精一杯。
そのまま、ただ公園が見えなくなるまで走った。
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作者名：空音
| 作成日時：2011年8月3日 22時
