第8話 ページ9
ｰ松本sideｰ
「…ねえ、聞いたー？」
「聞いた聞いた、アレでしょ？」
「そう、Ｂ組の櫻井くんが……」
俺は、走っていた。
がむしゃらに、息を弾ませながら。
Ｂ組は、もうすぐそこ。
「…××君の財布、盗んだんだって…」
名前を聞く暇なんてなかった。
それよりも…
「翔くん…………翔くん…翔くん……！」
ガラララッ…！
ドアを開ける。
「ぇ………松本、君？」
クラスがどよめいた。
女子の歓声も共にあがる。
そんなの、気にしない。
「…櫻井、翔くんは………」
「いないよ」
言う前に、遮られた。
しかも、後ろからの声。
「…長瀬、先輩」
そこには、目に涙を浮かべた＿＿＿
長瀬先輩が、いた。
「…先輩は、知ってたんですか」
その数分後、俺達は学校の中庭にいた。
コンクリートの地面を見つめる。
無意識に目線が下がる。
「…ああ。ぽろっと……小耳に挟んでな。
二宮には…話したんだが……」
ニノは…、野球部の後輩だから、1番話しやすかったんだと思う。
そう、思いたい。
「…なん、で…僕には……」
「……俺の、判断だ。
お前に話すと……状況が悪化するのが怖かった」
長瀬先輩は、僕等後輩のことをよく知っている。
俺が、ピリピリしやすい性格だということも、
ニノが秘密をよく守る性格だということも、
…翔くんが我慢強い性格だということも。
「…すまん」
長瀬先輩は、ただ一言言って、俯いた。
…本当は、聞きたいことが沢山あるのに。
なんでニノだけに伝えたの？
俺に伝えなかった理由は他にもあるんじゃないの？
…そもそも、どこで翔くんがいじめにあってるのを聞いたの…？
…それなのに、
その後は沈黙が長々と続いて、
長瀬先輩と、別れた。
、、だけだった。
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作者名：櫻井チコ | 作成日時：2020年2月8日 22時
