壊れるくらい抱きしめて (ページ35)

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救世主ページ35

『もう大丈夫だからな。』

全身の力が抜けたような思いだった。

ドアノブを捻りながら

私に話しかける男の声を遮るように

聞こえたどこかで聞いたことのある声。

少し低音で

でも紫耀とは違い

ハスキーボイスな訳ではないけど

優しく包み込んでくれそうな声。

それでもまだ混乱している私は

外から入ってくる

二人のやり取りを

ただ聞くことしか出来なかった。

数分後。

再びチャイムが鳴って

ドア越しに顕嵐くんは

優しく私に話しかけた。

すぐに応えられない私を

見捨てず

ずっと外で待ってくれてる。

十分くらい経っただろうか。

意を決して

大きな息を吐いた私は

ゆっくりと重たいドアを開けた。

顕『Aさん!』

ドア越しの時の

優しく話しかけてくれてた

冷静な顕嵐くんが

余裕一つない真剣な表情で

私の身体を包み込む。

数分前漸(ようや)く停まったはずの涙が

今度は安堵の涙と姿を変え

再び頬を蔦って流れていった。

顕『怖かったね。

ごめんね。

もっと早く来れなくて。』

「どうして顕嵐くんが謝るの?

それに何でここ…。」

顕『恥ずかしいけど

珍しくちょっと酔っ払ってて

そしたら乗るエレベーター間違えて

たまたま乗り換えようと思って降りた階から

この時間に相応しくない音が聞こえてきてさ。

少し気になって覗いたんだけど

酔っ払いかと思って

すぐ引き返そうと思ったんだよね。

そしたらいちかちゃんって声が聞こえてさ

前に神宮寺が

Aさんのこと

酔っ払うと源氏名で呼んでて

それでもしかしてと思って。

気が付いたら

必死でおじさんに声かけてた。』

「そうだったんだ。

こんな時間にごめんね。

もう大丈夫だからありがとう。｣

顕『大丈夫じゃねえだろ。

こんな時くらい少しは甘えろよ。

紫耀さん帰ってくるの遅いでしょ?

それまでここにいさせてよ。』

「ごめん…。

あ、らんくんっ。

私あんなに酷いこと言ったのに。

また助けてもらっちゃって

ごめん。

ごめんなさい。」

顕『もうそんなに謝らなくていいから。

今は自分のことだけ考えろ。』

そう言った彼の

指がそっと私の肌に触れ

涙を拭うと

ニコッと笑って見せた。