壊れるくらい抱きしめて (ページ30)

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確認ミスページ30

『いちかさんお仕事入りました。

北野さんの車で出発です。』

煌びやかな繁華街を

颯爽と通り抜ける。

『到着しました。』

「ありがとうございます。

ってえ…。」

『どうかしました?』

どうかしたも何も

車が停まった場所は

紛れもなく私の住んでるマンションの前で。

仕事のメールを確認すれば

確かに住所のところに

うちのマンションの名前。

すっかり見逃していた。

このドライバーさんは

私の家を知らないし

今日は神宮寺くんはお休みで

フロントの人も確か新人さんだったから

予約を受けてしまったのだろう。

これは確認しなかった私の責任だ。

だから仕方無い。

「いや何でもないです。

ごめんなさい。

行ってきます。」

多少の不安を覚えつつも

メールに書かれていた3階の文字を見て

このマンションには大勢の人が

住んでいるのだから

きっと大丈夫だろうと

自分に言い聞かせ

お客さんの部屋のチャイムを鳴らす。

「こんばんは。」

『こんばんは。

めちゃくちゃ可愛いね。』

開かれたドアの先には

30代の男の人。

正直言って見た目はかなり冴えないタイプだ。

「白石いちかです。

よろしくお願いします。」

「じゃあシャワー浴びましょうか。」

『いちかちゃん

ここ弱いんだね。

可愛い。』

好きでもない人に触られて

感じてしまう自分が

初めは嫌で仕方なかった。

でも今では

そんなことどうってこともない。

.

.

「今日はありがとうございました。」

『こちらこそありがとう。

ねぇ

いちかちゃんLINE教えてもらえない?』

これにももう慣れている。

連絡先を聞いて

外で会おうとしてくるお客さんは

少なくない。

だけど昔から私は

これだけは断っている。

仕事以外では

お客さんには会わないし

連絡を取ったり個人的な関わりも持たない。

たとえお金が発生するとしても。

「ごめんなさい。

私そう言うの教えてないんですよね。

じゃあもう迎え来てるので

帰りますね。

お休みなさい。」

何か言いかけていた

客の言葉を躱して

部屋を出て

マンション前に停まっている車に乗りこんだ。