38 ページ38
･
『湧、くん』
｢…あ、来てくれたんだ、｣
『うん、今日の試合、すっごくかっこよかった』
平塚が去った後、必死に顔の熱を冷ましたつもりでいたけど、彼女の姿を捉えるとすぐに熱がぶり返す。
額に流れてきた汗を拭って 一歩近づくと、Aちゃんはスカートの裾をぎゅっと握り締めた。
それがさっきの俺と重なって、
ああ、やっぱAちゃんも緊張してんだって、つい笑みがこぼれる。
｢俺さ、Aちゃんに良いところ見せたくて頑張っちゃった、｣
『…ほんと、？』
｢まじまじ、だって帽子被るから意味ねえのに無駄に髪の毛セットしてきたし、｣
『ふふ、何それ』
｢…あー、ほんとはもっとちゃんとした格好で言いたかったんだけどさ、｣
軽く前髪を整えて、深呼吸をひとつ。
会う前にちゃんと洗ったけど、手汚れてないかな、頭の片隅でそんな事を思いながらAちゃんの指を絡めとった。
俺の心臓の音が伝わってしまわないか心配だけど、
もし伝わっても、Aちゃんは優しい顔で笑うんだろうな。
｢…Aちゃんの頭にボールを当てちゃったあの日、｣
出会いは最悪で、
偶然とはいえ女の子に一生傷を負わせてしまう所だった。
部活に戻ろうと思えば戻れたのに それをしなかったのは、不謹慎ながら、これを口実に仲良くなりたいという下心。
きっと、初めて目が合ったあの時に俺は、
｢…すっげえ可愛い子じゃん、って。一目惚れした、｣
『…うん、』
｢…正直、幸せにできる自信しかないんだよね。…だからさ、俺と、付き合ってくれませんか？｣
泣きながら頷いたAちゃんを、
衝動のままに抱き締めた。
･
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 902人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「少年忍者」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：そり
| 作成日時：2020年8月4日 19時
