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家に戻るとオフィスに忘れ物をしていることに気がついた。
貴重品でもないし、特にすぐ必要なものでもなかったし、明日確認すれば良いのだが、東郷がオフィスに残っていることを思い出し、もう一度家を出た。
あの様子じゃあまだ時間はかかりそうだし、コンビニで差し入れに何か買ってからオフィスに向かうか。
片道30分の道中、東郷にまだ残っているかメッセージを送ってみるも既読がつかない。
作業に集中しているのかと時間をおいて再度送信してみるが、やはり既読にならない。
普段すぐに返信が来るだけに少しだけ心配になったが、もしかしたら早々に復旧してすでに家に帰っているのかもしれない。
電車から降りるとコンビニには寄らずオフィスへ直接向かった。
歩きながら電話してみるがやはり繋がらない。電話が留守番電話に接続する度に歩くペースが早くなっていく。
オフィスのあるマンションが見えてきて、見上げると、窓から明かりが漏れているのが確認できた。
東郷はまだ帰っていない。しかし連絡が取れない。
急に不安になって走ってエレベーターに乗り込んだ。
何か事件に巻き込まれたか。強盗とか、襲われたりしているかもしれない。
ゆっくり閉じる扉にこんなにイラついたことはない。
エレベーターが止まり、扉をこじ開けるようにして降りると、オフィスのドアを思いっきり開けた。
「東郷！？」
靴を脱ぎ、廊下を進むと、撮影部屋から東郷が顔を出した。
「福良？どうしたの、そんなに慌てて」
「何してんの…」
「何って、ちょっと寝落ちしてた」
本を片手に少しだけ乱れた髪を直す東郷に膝の力が抜けた。
「ちょっと、本当にどうしたのよ」
「連絡、したんだけど。電話も」
「ああ、スマホ執務室に置きっぱなしだ」
「何かあったかと思った」
情けなく座り込む俺の前に東郷が屈んだ。
「何かあった、って。大袈裟だよ」
「心配したんだよ」
「…なんかごめん」
東郷は立って、と俺に方に手を差し伸べた。
俺はその手を取って立ち上がる。
よかった。何もなくて。
俺の勘違いでよかった。
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作者名：シロ | 作成日時：2021年3月19日 2時
