【QK】レモンドロップを溶かして【Fkr】 (ページ11)

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東郷さんに送って欲しい！と喚く青木を別の社員に託し、俺は東郷を家まで送る。

「アンタは方向音痴なんだから、来なくていいって」

それが東郷の決まり文句だが、方向音痴だろうとなんだろうと東郷は女の子なので、深夜に1人で夜道を歩かせるわけにもいかない。
拒む東郷を押し切って家まで送り届けるところまでが俺の役目、だと勝手に思っている。

「じゃあ、また月曜日。」

「ん。ありがとね、おやすみ」

「おやすみ」

女の子だから、というのはもちろんだが、俺がどうしても東郷を送り届けたいもう一つの理由は、これだ。
送り届ければ、東郷が寝る前最後に声に出しておやすみという相手は高確率で俺になる。
少しでも俺のことを意識して欲しいという可愛らしい意地だと笑ってくれればいい。

東郷を送り届け、いい加減俺でも覚えた道のりを戻る。
東郷と俺の家は１駅しか離れていない。
だからこういう時は歩いて帰る。このくらいしか運動もしないし。

歩きながら初めて聞いた東郷の初恋の話を思い出す。
あの子だよ、とキャンパスで見かけた時に教えてもらったことはあったが、それ以外の話を聞いたことがなかった。
引きずっている、とはわかっていたけれど、東郷の上にのしかかっているものは、俺の想像の数十倍は重いようだった。
だから、アプリでチラリと見たお気に入りの女の子は、以前キャンパスで見かけたその子に雰囲気が似ていたし、東郷が連れてくる女の子は大体同じような子なのだ。

正直、それだけ想われている初恋の相手が羨ましい。
同時に、あんな一途な東郷の方を見向きもせずに、どこをほっつき歩いてるんだと言いたくもなる。

東郷が俺を見てくれる日は来ないだろう。
俺を見てくれ、とは言わない。言えない。
けれどせめて、東郷の運命の女(ひと)が現れて、東郷のことを幸せにしてあげて欲しい。
誰かを幸せにすることだけを考えている東郷を、幸せにしてあげて欲しい。

東郷が幸せになってくれないと、俺は次へ進めない。