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ある春の日。
私はいつも通りオフィスで仕事をしていた。
「東郷さん、これチェックお願いします」
「はいよ」
この会社がまだ今ほど大きくない頃から働き始めたが、今では後輩の方が多くなった。
私も後輩に指導することも多くなってきた。
チェックを終え、修正箇所だけを伝えに後輩の席まで行く。
「お疲れ。ここだけ直したらオッケーだから」
「ありがとうございます！」
年下のアルバイト。まだ、学生なので初々しさがあって可愛らしい。私の方を見てにっこり笑う彼の髪を、弟を可愛がる感覚でくしゃくしゃにして自分の席に戻った。
「さすが人たらし。」
「…なんですか」
「いや？」
野次を飛ばしてきたのはナイスガイなお兄さん。
自分だって人のこと言えないくせに。
どうせ私なんかがさっきの彼の髪をくしゃくしゃにしたところで、誰のやっかみを買うわけでもないんだし。
「あれ、東郷。いたの。集中してて気付かなかった」
「朝からいるんだけど。アンタの集中力時々心配になるよ」
隣から声をかけてきたのは福良。
実は大学からの付き合いで、この会社に入社したのも福良に誘われたから。
1年生の時には関わりがなかったのだが、2年生から取り始めた授業がちょくちょく被るようになり、仲良くなった。
「福良、この動画のチェック終わったけど」
「ん、ありがとう」
「そろそろ一区切り？昼ごはんいこうよ」
「いいね、もうちょいだから待ってて」
「了解。須貝さんも行きますー？」
「あー、俺これから外出だからパス」
仕方あるまい。福良と二人で行くか。
行く前にトイレだけ済まそうと廊下に出る。
トイレに入り、スマホのロックを解除すると画面を一番右まで移動させて、たった一つだけ別にされたアプリを開く。
写真をスワイプしてみるが、特に気になる子はいなかった。
トイレから出て部屋に戻ると、福良は作業を終えたようで椅子から立ち上がって支度をしていた。
「お待たせ。行けるよ」
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作者名：シロ | 作成日時：2021年3月19日 2時
