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「私、もうあの店やめようかなって」
ほとんど吐息のようなその言葉が出たのは数分経ってからだったと思う。
私が無言で泣き続ける中、彼は何も言わず隣に座っていた。
「どうしても周りに馴染めなくて」
するとワタナベさんはそこで口を開いた。
「俺も仕事で大変なことはあるけど、周りの人のおかげで頑張れてると思うんだよね。だから、Aさんも一緒に働きたいと思える人がいる場所を探したらいいんじゃないかな」
私は結局誰かに背中を押してもらいたかったのだ。その言葉に肩の荷がストンと降りた気がした。
「あのでも、辞めたらもうワタナベさんに会えなくなっちゃいますよね」
やはり心に支えていたのはそのことだった。
彼は私の言葉に一回驚いてから笑い出した。
「なんでよ。会えるよ」
「でも連絡先も知らないし」
「あれ、交換してなかったっけ。じゃあ交換しよう、今。」
ワタナベさんはポケットからスマホを取り出すと、こちらに画面を向けた。
その画面を読み込んで表示された名前。
「渡辺、航平さん…」
「AAちゃんね」
初めて呼んだ下の名前と、初めて呼ばれた下の名前。
頬に伝う涙はもう目からは溢れていない。
残りの水滴をもう一度手で拭う。
「あの、一緒に付き合ってくれてありがとうございます。もう大丈夫です」
「よし」
渡辺さんは手で膝を軽く叩いて立ち上がった。
ぐっと背筋を一度伸ばしてから私の方を振り返って手を差し伸べた。
「帰ろっか？」
私はその手に甘えて自分の手を重ねる。
普段はこんなことが起こるなんて絶対に信じないタイプなのに。
数ヶ月前に知り合ったばかりの彼にしっかりと手を握られているこの状況。
あの時、初めて買い出しを引き受けて良かったと思った。
あんなに嫌いだったあの店も、最後に働いていて良かったと思えた。
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シロ(プロフ) - 夢小説大好きおばけさん» はじめまして。コメントありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです…その後、いつかどこかで公開します:) (2021年3月3日 16時) (
レス) id: 40ccbc89c0 (このIDを非表示/違反報告)
夢小説大好きおばけ(プロフ) - 初めまして、どの話も本当に素晴らしかったです。言葉選びが優しくて、特にKochanのエピソードが思い出話含め一番好きでした……！いつかその後を拝読できる日が来ることを願っています。 (2021年3月3日 15時) (レス) id: a1cfe06fe2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：シロ | 作成日時：2020年12月24日 12時
