買い出し #Kochan ページ36
〈貴方が初めて握った私の手は涙に濡れていました〉
「あ〜フルーツないね…」
「次届くのいつですか？」
「明日の朝なんだよね〜。今日1日もつかな」
そんな声が聞こえてくるアルバイト中。
私はパンケーキ屋で働く大学生。この店は毎日店内に客がいなくなることはないほどには繁盛していて、体を動かしていないと気が済まない私の性分に合っているバイトだった。
しかし、一つだけ気になることは、同期とも先輩ともなかなかソリが合わないことだ。
店ではフルーツや生地の材料になる卵や小麦粉、ドリンクを作るためのコーヒーや牛乳などは定期的に仕入れているが、特にフルーツはその定期便が間に合わず切らしてしまうことがしばしばある。
「足りなさそうじゃないですか？」
「厳しそうだね〜…」
ここまでがいつもの一連のやり取り。
誰も行きたくないし、そこそこの量の荷物をそこそこの距離持って歩くのが嫌なのだ。
「私行きましょうか」
それで私が名乗り出て私がいく。
別に行く事自体が嫌なわけじゃない。休憩がてら音楽でも聞きながら買い物に行けるのだ。悪いもんじゃない。
ただ、行きたくないなら行きたくないと、私に行かせたいのならそうと言えばいい。まわりくどく私が行くように仕向けなくてもいいのに。
「本当？助かる〜」
エプロンを外し、こっそりイヤフォンをポケットに忍ばせて店に戻ると、先輩が書いたメモを渡される。
今日は思ったよりも量が多い。さっきの会話でフルーツだけだと思っていたのだが。
イチゴとラズベリーとブルーベリーとレモンとバナナ、それと牛乳とアーモンドミルクの二本。
手で持つわけではなくて、おばあちゃんが引いているようなショッピングカートに入れて帰ってくる。
しかし、この量が入るだろうか。入らなかったら手で持てばいい、そんな安易なことを考えたが最後、痛い目を見ることになる。
店を出て、先ほどポケットに忍ばせたイヤホンを耳に突っ込む。
音量を上げて思考をかき消す。私は音楽に浸ることが好きだ。
頭の中をその旋律でいっぱいに埋め尽くしている間は日頃の鬱憤も押し潰されていく。
歩いて10分ほどのところにある大型スーパーに入ると、ポケットで握り締めたメモを取り出して目的の陳列棚まで真っ直ぐ歩いて行った。
レジへ向かう頃にはカゴはいっぱいになっていた。
会計を済ませていざ持参のカートに商品を詰め始める。
途中まで詰めたところで、まったくもって全て入りそうにもないことに気づいた。
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シロ(プロフ) - 夢小説大好きおばけさん» はじめまして。コメントありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです…その後、いつかどこかで公開します:) (2021年3月3日 16時) (
レス) id: 40ccbc89c0 (このIDを非表示/違反報告)
夢小説大好きおばけ(プロフ) - 初めまして、どの話も本当に素晴らしかったです。言葉選びが優しくて、特にKochanのエピソードが思い出話含め一番好きでした……！いつかその後を拝読できる日が来ることを願っています。 (2021年3月3日 15時) (レス) id: a1cfe06fe2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：シロ | 作成日時：2020年12月24日 12時
