音のないカフェ ＃Kwmr ページ22
〈初めて貴女と交わしたのは視線でした〉
暖かい午後の風が吹く14:25。
すっかり手に馴染むようになったドアハンドルを握って少しだけ勢いをつけて体の方に聞くと、耳触りの良いドアベルが鼓膜を震わせる。
「いらっしゃいませ」
目を合わせて会釈する程度にはお互い顔見知りになった店長のテノールを聞きながら、迷わず壁際の一席に腰掛ける。
窓に向かい合った角の席。ここに腰掛けると、ちょうど差し込む陽が頭のてっぺんの髪を掠める。
その僅かな温もりを感じながら作業するのが心地いいのだ。
「ホットコーヒーお願いします」
馬鹿の一つ覚えのようにまた同じ言葉を繰り返す。
承知しました、という言葉を聞きとめてからパソコンを開いて作業を始めた。
初めてこの店に入った時は驚いた。
落ち着いた雰囲気の喫茶店だとは外観からも伺えたが、中に入るととても静かだった。
些細な音であれば木製のテーブルや椅子に吸収されていくということなのか、この店には余計な音がなかった。
そして店内に流れる音楽もなかった。
耳を澄ませば店長がカウンターの向こう側でカトラリーやカップを動かす音や、コーヒーを淹れる音、客がキーボードを叩く音、そして時々誰かが咳払いするのだけが聞こえて来る。
いつか誰かが店長に聞いていた。
「なぜ音楽をかけないのか」
店長は、この店は本を読む人のためにあってほしい、と答えた。
自分は本を読む時には音楽が邪魔になる。でも、広い空間で誰かの音を聞きながら読みたくなる時がある。そういう時に行きたい店を作りたかった。
その言葉が聞こえた時、きっと店内にいた全員が心の中でありがとう、と呟いただろう。
僕もその1人だ。
店の空気もさることながら、この店長の心意気に心を打たれ、僕はここに通い始めた。
週に2回。火曜日と金曜日の14:30前に訪れ、角の席に腰を下ろして気の済むまで作業やら読書やら考え事をする。
いつのまにかこの時間が頭をリセットするスイッチになっていた。
ここに来れば考えが深まり、自分の中の新たな発見ができるような気がした。
ここはいつのまにか僕にとってそんな場所になっていた。
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シロ(プロフ) - 夢小説大好きおばけさん» はじめまして。コメントありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです…その後、いつかどこかで公開します:) (2021年3月3日 16時) (
レス) id: 40ccbc89c0 (このIDを非表示/違反報告)
夢小説大好きおばけ(プロフ) - 初めまして、どの話も本当に素晴らしかったです。言葉選びが優しくて、特にKochanのエピソードが思い出話含め一番好きでした……！いつかその後を拝読できる日が来ることを願っています。 (2021年3月3日 15時) (レス) id: a1cfe06fe2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：シロ | 作成日時：2020年12月24日 12時
