108本の薔薇 #ymmt ページ18
初雪の降った4年前のあの日、彼女の隣に立つ許可をもらった。
マフラーを下ろした2年前のあの日、毎日顔を見ておやすみを言える権利をもらった。
例年より暖かい今年。一世一代の大イベント。
僕らにとって大事なこの日にしたくて、何ヶ月も前から考えてきた。
その結果、人生に一回しかないならベタでもいいよね、と今僕はこのでっかい束を抱えてここに立ってる。
そういう話はしていたし、完全なサプライズでもないのだが、その瞬間くらいはサプライズにしたかったので理由をこじつけて彼女と外で待ち合わせることにした。
夜景の見える綺麗な公園。だけど少し恥ずかしがり屋な彼女のためにあまり人目につかないところ。
暖かいと言っても風が冷たく、少し前から待っているからか、緊張からか、手がかすかに震える。
「祥彰…？」
ドキドキしながらまっていると後ろから愛しい人の声。
振り返ればすでにその束に目を丸くしている彼女。
「これ、どうしたの…」
「A、4年記念日おめでとう」
はい、とその束を渡せば困惑しながらも受け取る彼女。
「こんなにたくさんの薔薇…運ぶの大変だったでしょ」
照れ屋で現実主義な彼女の一言目はそれだった。
ロマンティックのロの字もない言葉だがそんなところも彼女らしいと笑みが溢れてしまう。
「A、4年間僕と一緒にいてくれてありがとうね。Aと4年間過ごして、これから一生一緒に過ごすのはAしかいないって改めて思った」
そこまでいって息をつく。返事はある程度わかっているとはいえ緊張するものだ。
ポケットに入れていたその小さな箱を取り出した。
「A、俺と結婚してください」
ベタなドラマのワンシーンの様に箱を開いてきらりと光るそれを彼女に見せた。
他にやり方あっただろ、と突っ込まれるかもしれないが生憎僕はこのやり方しか知らないのだ。
ひゅっと風が一瞬通り過ぎ、彼女は抱える花束と反対の手で口元を押さえていた。
「…はい」
小さな呟きが耳に届き、慎重にリングを指に通すと緊張の糸が切れた。
「はあ、緊張した〜」
「緊張してたの？」
「緊張するよ！」
「ふふ、嬉しい。幸せになろうね」
そう言って目を潤ませながら笑う彼女はいつにも増して綺麗に見えた。
「この薔薇、何本あると思う？」
「まさか108…？」
「大正解」
「うわぁ、まさか自分がもらうとは思わなかった」
「それは喜んでる？」
「喜んでるよ。でも恥ずかしいからタクシーで帰ろ」
「そうだね」
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作者名：シロ | 作成日時：2020年11月11日 13時
