【QK】取扱説明書【短編集】 (ページ28)

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充電する子 #fkr ページ28

毎日満員電車に揺られながらの通勤、帰宅。
朝から夕方まで、大量に課せられるタスク。
それに加えて新しい環境に新しい人々。
会社が嫌だとは言わないが、慣れないこと続きで早くも疲れを感じ始めていた。

社会人になって1ヶ月。
最初のひと月は余裕がなくて、土日は拳くんが忙しかったりと、なかなか会える時間が取れなかった。
それでも彼は電話してきてくれたり、LINEだったり、気にかけてくれていた。

「A」

「拳くん…いらっしゃい。久しぶり。」

「久しぶりだね」

久しぶりに会った拳くんは全然変わらなかった。1ヶ月しか経ってないのだから当たり前だが。
せっかく会えた休日だというのに雨で外に出られないため、家でただだらだらする時間だけが過ぎていく。

久しぶりに会ってみて思うことは、拳くんは今まできっと私のために時間を作ってくれていたのだということ。
社会人になって、時間を作ることは難しいことなのだと痛感した。

「拳くんは私に会う時間を作ってくれてたんだね」

学生の時は私が拳くんの予定に合わせていたから、拳くんのお休みの度に会えていた。
でも、拳くんはきっとお休みの日にやりたいことはたくさんあっただろう。その時間をいつも私にくれた。

「確かに、時間は作ってたけど、別にイヤイヤ作ってたわけじゃないよ」

拳くんは変わらない優しい目で私を見た。

「Aに会うのはいつも楽しみだし、別れ際はいつも寂しいし。俺がAに会いたくて会いにきてたんだよ。」

「でも、お休みの度に私を優先してくれてたでしょ」

「Aこそ、いつも俺優先だったでしょ。Aが社会人になったから、今度は少しでも俺が合わせる番」

拳くんは大人だ。
私に無理をさせないし、嫌な思いをさせない。
でもきっと自分も無理してないし、嫌な思いをしてない。
そのバランスをとるのは簡単なことじゃないのはわかる。

「ありがとうね」

「こちらこそ、いつも充電させてくれてありがと」

「充電…」

そういうと、拳くんは私を抱きしめた。
拳くんに抱きしめられながら体の芯が満たされるような気がした。

充電…か。

「私も、充電させてくれてありがと」