１２ ページ12
黒田さんは私と雑談しているのが楽しいのか、自分のことを聞かれているのが気持ちいいのか、時間を潰していることに気づく気配もなく嬉しそうにペラペラと話し続ける。
そろそろ彼には居場所が伝わっただろうか。
あと少し待って来なければ自力で逃げるしかない。
「あのお肉屋さんのコロッケ、美味しいですよね。食べたことありますか？」
「あるよ！でも僕はもう少し高い肉が使われてた方がいいかなあ」
駄目だ。この人とどうやって会話を続けていいか分からない。
そろそろ限界だ。まだ彼は来ない。
自力で逃げるか…。
「A！」
意を決して握った掌に力を込めた時、待ち人の声に鼓膜が震えた。
その声に振り返ると、待ち続けたあの人がいた。
「須貝さん…」
「何してんのこんなところで。探したよ」
「ごめんなさい…」
その姿と声にふっと何かの糸が切れた音が聞こえた。
未だしっかりと私の手首を握っている黒田さんの手を振り払おうとしながら須貝さんの方へ右手を伸ばす。
その手を須貝さんはスマホごと包み込んだ。
「来てくれてありがとう」
思わずこぼした声はあまりに震えていて、私は怖かったんだ、と自覚する。
「うん、電話くれてありがとね。帰ろっか」
「は？おい、ちょっとなんだよお前！」
黒田さんは怒鳴り上げた勢いでその手を離した。
それを見た須貝さんが私の手を強く引き、私の体を寄せた。
「警察、呼びましょうか？」
「ふざけんな、俺はAを送っていこうとしただけで！」
「彼女、嫌がってるように見えましたが。」
そう言いながら須貝さんはスマホを操作している。
額を彼の胸に押しつけられつつ、目の端で腕が動いている気配がする。
「本当に、警察呼びましょうか？」
「なっ、」
スマホの発信画面に１１０と打ったのを見せたのだろうか。
黒田さんの怯む声が聞こえ、走り去る足音が聞こえた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 344人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆきんこ(プロフ) - こんばんは。コメント失礼します！ こちらの作品最っ高で読みながらニコニコしてました！ 完結おめでとうございます！！ (2022年6月3日 21時) (
レス) id: 83dccc5424 (このIDを非表示/違反報告)
シロ(プロフ) - りみさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます！力になります！ (2021年1月15日 15時) (レス) id: 40ccbc89c0 (このIDを非表示/違反報告)
りみ(プロフ) - 毎回ドキドキしながら読んでおります^^*次回の更新も楽しみです！ (2021年1月15日 2時) (レス) id: 8d6821c78b (このIDを非表示/違反報告)
シロ(プロフ) - 緋歌梨さん» ご指摘ありがとうございます！修正いたしました。誤字が多く読みづらくて申し訳ないです… (2021年1月6日 12時) (レス) id: 40ccbc89c0 (このIDを非表示/違反報告)
緋歌梨(プロフ) - コメント失礼します！4ページ目“振れられる”じゃなくて､“触れられる”じゃないですか？ (2021年1月6日 11時) (レス) id: ef32365840 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：シロ | 作成日時：2020年11月22日 1時
