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Aが自暴自棄になってるのはみんな分かりきってた。
怒りっぽくもなってるし、焦ってもいるし、
踊れないって宣告されて動揺しないはずが無い。
特にAは、ダンスがあったから繋がった仲。
酒とか薬とかに走るわけじゃないけど、
ご飯は食べようとしなかったりとか、眠らなかったりとか。
ダンス練習も参加はできなくても、見学しとけと、
スタッフから指示出されてもどこかボーッとしてて。
壱馬「A……」
『見とけって言われても、踊れないって言われてんのにさ、
私に一体何ができんだろうね』
北人「そんなの……」
『みんなには分かんないよ、踊れなくなった私の気持ちなんてさ』
海青「Aさん」
『言ってよ。
お前なんて要らない、早く消えろ、って。
もうさ、お荷物背負わなくて済むんだよ』
自嘲気味に告げたAに、我慢ができなくなった俺は、
Aの手を取った。
壱馬「ええ加減にせぇよ。
それ、AKIRAさんの前でも同じこと言えんのか」
『……踊れる鈴本Aが必要なのであって、
そうじゃない私は要らないじゃん』
壱馬「A」
『だってもう踊れないって言われたんだよ!?
その通りじゃん!!』
Aは俺の手を振りほどいて、
涙目で俺を睨んできた。
そしてそのまま立ち上がったと思えば
俺の胸ぐらを掴んできて。
『分かる?
今もずっと聞こえないの。何にも。
あんたが怒鳴ったとして、私がキレたとして、
他のメンバーが止めようとしたって、何にも聞こえないの!!
そんな状態で、踊れると思う!?』
聞こえないというのがどれだけ辛いのか。
たった一人という武器で、
俺と一緒にセンターでダブルエースとして
結成からたくさんの思いを抱えて走ってきたA。
だからこそ悔しい。
Aがどれだけ自分を押し殺してここまで突っ走って来たのか。
それを知ってるからこそ。
壱馬「俺は、耳が聞こえなくなったことなんてないし、
全部のAの気持ちを知るなんてできない。
でも俺は、Aを信じてる」
『っ』
壱馬「どんな崖っぷちからも、絶望的な状況からも、
全ての苦境を「楽しい」「最高」って
笑って跳ね返してきたAだけを、俺は信じてる」
ポロリ、またポロリと涙を流したA。
俺は声を上げて泣き出したAを抱きしめるしかできなかった。
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作者名:雪乃 | 作成日時:2024年3月19日 15時