110話 「二人の時間(1)」 ページ10
その日、Aは業の家に帰った。
事前に両親には話しているので問題無い。
業「着替えあるよね？」
A「停学中に泊まった時のあるでしょ」
業「それなら出してる」
A「ありがとう」
幼い時から何度も出入りしているこの家。
Aはキッチンに立つと、帰りに買ってきた食材で二人分の夕飯を用意していた。
業は洗濯である。基本一人暮らしに近い業は同年代よりも自立心が強い。
一応料理もお手の物である。
──────────
Aが作った夕食を食べ、お風呂に入った二人は業の部屋で各々過ごしていた。
業はゲームの続き、Aは髪を乾かしていた。
二人の間に会話は無いが、一通り終えると、Aは業のゲーム機を覗き込む。
A「それ楽しい？」
業「凄く」
A「ふーん」
業はゲームが好きだが、Aは特に好きって言うほどではない。
どっちかって言うとAは課題や勉強をやるタイプだ。
実際業からゲーム機を借りてやった事あるが上手くできたのは頭脳ゲームだけだった。
業もゲームをセーブするとAのサラサラな髪に触れる。
業「いつ触ってもAの髪好きだな」
業はそう言ってAの髪に鼻を近づけて嗅ぐ。
昔からとは言え、流石に付き合ってからってなるとAも恥ずかしい。
A「ちょっと」
業「あれ、珍しく照れてるじゃん」
A「……」
業「俺の事、意識した？」
耳元で囁かれる。
以前までは本当に何も無いが、異性としての関係ができてから少し恥ずかしい。
A「元から、してるよ」
Aは震えた声で業に抱きつく。
業はAを抱きとめると、項の部分に手を当てた。
約二ヶ月前、追い詰めたAは自分の命を捨ててまで殺せんせーを殺そうとした。
その時に触手が入っていたここ。
A「カルマ……？」
業「辛かったよね、A」
A「……」
業はギュッとAを抱きしめる。
Aは業の言葉を待つばかりで何も言わない。
業「俺さ、昔から信じられるの、Aだけと思ってたし、これからもそうだろうなって思った」
A「……」
業「殺せんせーは、卒業までに俺らが終わらせなきゃいけない。
俺らが、あのタコを殺さなきゃいけない」
業も不安なのだろうか。
Aには分からない。
業「あの時、Aもこんな気持ちだったの？」
その問いかけに答えられる答えを、Aは持ち合わせていなかった。
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作者名：塩こんぶ | 作成日時：2022年12月3日 11時
