125話 「それぞれの家庭」 ページ25
幼い頃よく遊んでいた公園。
夕方、そこのブランコにAは座って、隣のフェンスに腰を預けた業が立っていた。
A「さっきさ、浅野さんから連絡があった」
業「なんて？」
A「お父さんと一緒にご飯食べに行くんだって。
先生と生徒としてではなく、父と子として」
業「……そっか」
Aは膝を伸ばしてブランコを漕ぐと空を見上げた。
A「潮田さんはお母さんと、浅野さんはお父さんと和解って言うのかな、まぁ前より関係性は良いじゃん」
業「うん」
A「私、親に抱きしめられたの、カルマのお母さんが初めてだったんだよね」
幼い頃の記憶を思い出す。
業の家に遊びに行って、業と二人で遊んでたら自然に抱きしめられた。
これはAの憶測でしかないが、知られていたのだろう。
五十山田家の不仲さを。
A「別にさ、私だけが悪いなんて思ってないし、正直な話、衣食住には困ってなかったからまだ救われてると思う」
業「……」
A「実際、あの日まで私たちは雨風凌げて寝る場所あって、どんな食べ物であれど腹は満たせて、どんな布切れだろうと服はあった。
他の国の情勢に比べればまだマシだって思う」
業「A……」
Aは漕ぐのを止めて、震える右手を見た。
A「私がまともな環境じゃないのは認める。けど親に苦しめられてたのは、潮田さんも、神崎さんも、浅野さんもそう。
逆に私は、カルマのご両親が居てくれて救われたくらいだ」
あの日、病院に来てくれたのは業の両親で、法事の手続きも手伝ってくれたのも業の両親。
病院に行って泣きじゃくるAを抱きしめ続けてくれたのは、業の母だった。
その後のあれこれの対応も全部業の母が手を回してくれていたし、Aの今の家族が来るまでAを赤羽家で受け入れていたのも事実。
業「A、人と比べる必要なんか無いよ。Aの人生はAだけのもんだし、Aの気持ちも、心も、Aだけのものなんだから」
A「……カルマ」
業「どうあれど、俺もどうせ超生物を殺すんだから、一緒だよA」
A「……そうだね」
Aは笑うと、顔を俯かせた。
業「これからが、話したいことの本題？」
A「うん」
業「何かあったの？」
業の問いかけに、Aは何度か深呼吸を繰り返して震える手をぎゅっと握りしめると、乾いた喉を無理やり使う。
A「……私、まだ兄弟が生きてる」
その声は震えていた。
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作者名：塩こんぶ | 作成日時：2022年12月3日 11時
