113話 「二人の時間(4)」 ページ13
Aは業が動く気配で目が覚めた。
A「んー……」
業「おはよ、A」
Aが業を見ると、目は覚めていて、なぜかその手に洗濯物を持っていた。
回らない頭で必死に考えると、それは業が寝ている間に回していたものだろう。
A「おはよ…」
一応言っておくが、Aも寝起きは弱い。
いつの間にかソファに横になって、ブランケットを被っていた辺り、業が施したのだろう。
A「いまなんじ……」
業「4時前」
A「……今日泊まっていい？」
業「いいけど、どうしたの？」
A「カルマと居たい。寝てばっかだったから」
業「嬉しいこと言うじゃん、いいよ」
Aが業に手を伸ばすと、業は洗濯物を置いてAを抱きしめる。
小さい時からハグはよくしてたし、業が持っているアルバムには幼い二人がキスしてる写真もある。
何かしら可愛らしい写真がたくさんあって、二人の顔の良さと親のカメラセンスも相まってモデルのような写真がちらほら。
A「カルマの匂い好き……」
業「ねぇ、あんま煽んないで」
A「煽られてくれるんだ？」
業「お前まじ」
業はAをソファに押し倒した。
二人は顔を見合わせると微笑み合ってまた自然に唇を重ねる。
業「どう、俺のキステクは？」
A「カルマとビッチ先生以外知らないけど？」
業「ははっ、そりゃ良いわ」
業(そのまま、忘れてればいいよ、A)
業はAのこめかみを撫でると、体を起こした。
A「あれ？」
業「ほら、ご飯食べよ」
A「ごはん？」
業「Aが作ってくれてたやつ」
A「あー」
Aは立ち上がってリビングに向かう。
業も食卓テーブルの椅子に置いていた洗濯物を手に持って部屋に片付けていく。
業(あんなの、忘れた方がAは幸せだ)
Aは覚えていないようだった。
業は覚えているが、それすら正直辛くなる。
業(なんで、あいつらは楽に死ねて、俺らはこんな地獄を抱えて生きてるんだろうね、殺せんせー)
押し入れを閉じて立ち上がった。
業(俺ら、前世でどんなことしたんだよ。
なんで、あいつがあんなに苦しまないといけないんだよ)
業は拳を握るとAが普段は隠している傷跡を思い出す。
業以外誰も知らないその傷の理由。
A本人も覚えていない傷。
業「こんな残酷なこと、覚えていない方がマシだよね……」
拳を強く握るとそれらを一人で背負う覚悟を決めてリビングに向かった。
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作者名：塩こんぶ | 作成日時：2022年12月3日 11時
