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H.Y side









壱馬に久々に会った夕方。




俺は近所の公園に壱馬に呼び出された。




呼び出した壱馬は、
相変わらずキャップと黒マスクで顔を隠してて、
なんならパーカーのフードまで被ってる。






不審者かよ。






すると気配に敏感な壱馬は
振り向かないで俺に缶コーヒーを渡してきた。










壱馬「呼び出してごめんな。
A、大丈夫やった?」



北人「タイミング良く樹来てたから
任せて出てきたよ」



壱馬「そっか」



北人「で、何?」










プルタブを開けた俺は、黄昏てる壱馬の隣に立って
目の前に広がる景色を見つめた。










壱馬「ごめんな、北人」



北人「謝るために呼んだの?」



壱馬「色々と迷惑かけたと思って」



北人「心配はしたけど、迷惑はかかってない。
俺も、翔吾も、樹も、Aも。
みんな、壱馬が生きててくれてることにホッとしてる」



壱馬「…………そっか」










しみじみと呟いた壱馬は、
ゆっくり息を吐きながらゆっくり沈む夕陽を見つめてて。










壱馬「北人」



北人「何?」



壱馬「俺の親友で居てくれて、ありがとな」



北人「ちょ、辞めてよ。
そんな今生の別れみたいに言うのは」



壱馬「違ぇよ。……いや、違わないか」



北人「は?」










壱馬が何を言ってるのか分からなかった。



けど、不思議と今の壱馬は前とは違って。










壱馬「今まで俺の生きる理由が何か迷ってた。
俺は昔の母さんに戻って欲しかったから、
自分の体で戻せるんならそれも良いって思ってた」



北人「……」



壱馬「でも、母さんは帰って来なかった。
俺は父親にも母親にも愛されてなかったのかもしれない」



北人「……」



壱馬「だから、あの頃の自分とお別れしようと思って」










壱馬の言う"あの頃の自分"が何なのか。




俺の思ってる答えと合ってんのか分からなかった。





意外と頑固な壱馬は、
捨てちゃダメ、なんて偽善的な言葉が届くとも思えない。





自分にも、他人にも嘘をつけない壱馬だからこそ。





俺らはそのままでもいいよって言ってあげたいのに、
きっと壱馬は、"あの頃の自分"というものを否定してしまう。




どうしたら、どうやったら止められるか迷ったその時だった。










『ダメですよ先輩!』










Aの声が聞こえた。









もうすぐ、陽が沈む。そんな頃だった。

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作者名:雪乃 | 作成日時:2023年12月20日 11時

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