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私は先輩の話に何も言えなかった。
けれど、先輩は過去の話をしてる時とは反対に
いつもの笑みを浮かべて。
壱馬「でもな、俺母さんのこと恨んではいないんよ」
『そう、なんですか？』
壱馬「おん。
その時の経験があったから、俺はこうやって思うことができた。
誰かを守りたいとか、愛したいとか。
そんな感情が悪いもんじゃないって気づけた」
『………』
壱馬「Aと慎と翔平が、そう思わせてくれたんや」
別に泣きたいわけじゃないのに、
両目から涙が溢れてきて。
泣きたいのは先輩の方なのに、
私は涙を止める術を知らないまま先輩を見つめる。
壱馬「俺を愛してくれて、ありがとう」
『っ……そんなの、こっちのセリフですよっ』
壱馬「……ん」
私は本格的に涙を止められなくて、
口を覆って嗚咽を殺すし、
先輩は先輩でテーブルを見ながら笑ってるしで、
傍から見たら異色かもしれない。
それでも、私たちには関係無くて。
壱馬「引かんかった？」
『っ』
壱馬「俺の、最低な話を聞いて」
『引くわけ、ないじゃないですかっ』
どれだけ嗚咽を殺そうとも、話せば出てしまって。
先輩は笑いながらティッシュを差し出してくれた。
壱馬「ごめんな、A。
こんな話して」
『謝ること違うでしょ！』
壱馬「うん……ごめん」
『……っ、謝んないでよ。
先輩は、壱馬先輩は、何も悪くないからっ』
壱馬「……っ、
こうして名前呼ばれんのも、悪くないな」
先輩はホッとしたように肩の力を抜いた。
その様子に私も緊張した体から力を抜いて、
顔を見合せた私たちは思わず笑ってしまった。
今度は私の番だ。
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作者名：雪乃 | 作成日時：2023年12月20日 11時
