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先輩はまだ母親への気持ちを全て捨てきれてない。
それでも前を向こうとしてる。
とても強い人だと思ったし
それでいて、とても優しい人だと思った。
私はきっと、母を許せそうに無いから。
そう沈んでた時、北人くんが部屋に来た。
北人「やっぱり気にしてたんだ」
『ノックくらいしてよ』
北人「一応したんだけどね。
無視されちゃったから」
『……それはごめん』
北人くんは椅子に座ると、
鏡の前に立っている私を見上げる姿勢になった。
彼は私が母親を好かない理由を知っている。
だから、私を"一人に"しない。
北人「A、壱馬は母親のこと好きだけど、
許すつもりは無いって言ってた」
『っ』
北人「好きと、その感情は別物。
けど、一枚のコインのように出来てるものなんだよ」
『何それ』
北人「難しいよね、感情って。
どれだけ愛してても、どれだけ恨んでても、
愛と憎悪は紙一重」
『何?哲学の話?』
北人「A、壱馬は誰かを愛してるからこそ、憎いんだよ」
私には分からなかった。
北人くんの言いたいことが。
北人「Aはお母さんのことどうして憎いの?」
『別に憎いとか、恨んでるとかじゃない。
私をこうしたのはあの人の関係だし、
先輩が苦しむきっかけを作ったのもあの人だけど、
それで言ったら私はあの人に愛も憎悪も無い』
北人「…………」
『多分、言葉にするなら、興味無いんだと思う』
嫌よ嫌よも好きのうち。
愛と憎悪は紙一重。
なら、興味無い、ってことかもしれない。
そう言った瞬間、北人くんは壊れたように笑い出した。
思わず鏡から北人くんを見ると、
目元に涙を浮かべて彼は言い放ったのだ。
北人「やっぱ俺とAは親戚だわ。
思ってることが一緒だもん」
『はぁ?』
北人「ほら、親戚は似るって言うでしょ?」
『……北ちゃんタイム繰り広げられても……』
このモードに入った北人くんはよく分からない。
ただ分かるのは、
マイペースに勢いが増してること。
ただ本人は納得してご機嫌なので放っておこうと思う。
……結局あの人なにしに来たんだ。
って思ったけど、でもあの人が来るまでの沈んだ気持ちは無い。
それに気づいた私はさっきまで彼が座ってた椅子を見て笑った。
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作者名:雪乃 | 作成日時:2023年12月20日 11時