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別に、と、やや不機嫌にその女は言った。
『本当なら君だけ買って、さっさと帰るつもりだったんだが……まったく、クラウンの奴にはしてやられたよ』
「してやられた……？」
『君はおかしいと思わなかったか？一度舞台の上に出し、買い手がついた商品を何故、態々あんな場所に戻すのかと』
「あ……」
成る程確かに、その通りである。
一度舞台に出したのならば、取引会場や別室にでも置いておけばいい。客にあんな粗悪な環境を見せる必要だってない、むしろ見せないようにするのが普通の筈だ。
では何故、道化師はそうしたのか。
『大方、私にその２人を買わせたかったんだろう。あの道化師の思惑通りに動くのは癪だったが、君が死んで、10億が彼の手元に残るだけというのはもっと癪だった。理由なんてただ、それだけだよ』
意外にも饒舌に、女はことの顛末を話して聞かせた。
グルッペンは目を丸くする。
ただそれだけだと、癪だという理由だけで、人間を２人も買うなんて。
犬猫と同じようにはいかないだろう。決して小さくはない、少年を、２人も。
道化師は「纏め買い値引き」だ何だとふざけたことを言っていたが、借りを作りたくはないと、女は小切手を投げ捨てるように渡していた。
ちらりと見えた、上品な筆記体。目が眩むようなその額を、道化師はにこやかに受け取った。
「ハイ、確かに。落札どうもありがとう。また次の舞台で会いましょう、ネ」
『あぁ、もう２度とごめんだよ』
気怠げに言って、女はさっと馬車に乗り込んだ。
闇夜のように黒々とした、艶やかな毛並みの馬が２頭、ガタゴトと車を引いて歩く。
グルッペンが先刻のことを思い出していると、女が「お」と声を上げた。
『もうすぐ着くな……話はこれで十分か？』
「あ……えぇと、はい」
グルッペンは頷いた。
───ああ、馬車が止まってしまう。それから……俺たちはどうなってしまうんだ？
この女は、静かに穏やかに話をして、グルッペンのことを「君」と呼んだ。
だがそれが何だというのだろう。
グルッペンは、この女が冷酷であることを知っている。
あんな地獄のような場所を見ても、女はちょっと顔を顰めただけだった。
助けてくれと縋る手を、気怠げに払い除けていた。
そしてこの２人の少年を、「これ」と物のように呼んだのだ。
グルッペンはキュッと唇を噛む。
───その黒い仮面の奥には、きっと悪魔がいるのだろうと思った。
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シディア - わぁ！！！いなくなってた間にまた面白そうな作品が！！！他の作品も含めて続き楽しみにしています！ (2022年1月10日 14時) (
レス) id: 939d5c7779 (このIDを非表示/違反報告)
よなが(プロフ) - 暇なふぁいるさん» 気に入っていただけたようで嬉しいです。ありがとうございます！ (2021年11月23日 13時) (レス) @page7 id: 58d4b2eb6a (このIDを非表示/違反報告)
暇なふぁいる(プロフ) - クラウンめっちゃ好みのキャラです！これからも読ませていただきます (2021年11月23日 12時) (レス) @page6 id: 115c38c07a (このIDを非表示/違反報告)
よなが(プロフ) - 暇なふぁいるさん» フラグ付いてるの今気付きました！外したと思ってたんですけど……すみません！ご忠告くださった皆様、ありがとうございます！申し訳ありませんでした！！！ (2021年11月23日 10時) (レス) id: 58d4b2eb6a (このIDを非表示/違反報告)
暇なふぁいる(プロフ) - フラグついてますよ！！ (2021年11月23日 9時) (レス) @page5 id: 115c38c07a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：よなが | 作成日時：2021年11月22日 3時
