▼ ページ7
───そこはまるで、獣たちの牢獄のような。
隙間なく並べられた檻、澱んだ空気、そして何より、囚われた者が上げる悲鳴、奇声、呪いの言葉。
その全てに、魔女は強く強く、顔を顰めた。
『……クラウン』
「何だい？」
『コレは全部、商品なのか？』
「そうだよ？」
けろりとした顔で答える道化師に、深い溜息をひとつ吐く。
『状態悪すぎるだろ、何だこれは』
「何って……あぁ！コレはね、発注……じゃないや、受注ミス、かな」
道化師曰く。
「どこか向こうの国がね、滅んだか何かしたらしくって。人攫いの本領発揮ってところじゃない？必要以上に攫ってくるものだから、場所が足りなくなっちゃったのさ」
『足りないどころの話じゃないだろ……』
「まぁねェ……だから容姿の綺麗なやつから売ってるんだけど、そのあとは他所に流すかなァ」
“商品”の喚く声を鬱陶しそうに聞き流し、道化師はそう言った。
檻から縋るように伸びる腕を叩き落として、ニコリと笑った顔を魔女の方へ向ける。
「君が買ったのは、その中でも一等見目の麗しい少年さ。他にもいるけど、見ていくかい？」
『要らない。早く進んでくれ、頭が痛くなってきた』
「オヤ、失敬。気が回らなくて申し訳ない」
仮面の上から額を押さえる魔女に、道化師は謝罪の言葉を述べてくるりと前を向く。
悲痛な声と声の合間に、２人分の靴音が静かに響いた。
広くて狭い、暗い荷台の奥の奥。
一際大きな檻の隅に、暗闇で輝くようなブロンドの髪と白い肌。その隙間から、燃えるような赤い瞳がじっと魔女を見詰めている。
「この方が今日から君のご主人様だからね。挨拶は？」
「……」
道化師の声には返事もせずに、隅から動くこともなく、ただじっと、見詰めている。
「え〜どうしよう、ごめんね躾がなってなくて。殴っとこうか？」
軽い口調とは裏腹に、腰に提げた鞭に触れる道化師。
その言葉に、少年は一瞬ピクリと身体を揺らしたが、魔女が道化師を止めるのを見て、僅かに目を見開いた。
『その必要はないし、契約上この少年はもう私のものだ。傷を付けるのはよしてくれよ』
「……ふぅん。まぁ、僕は君がそれでいいならいいけれど」
道化師はちょっと不満そうに唇を尖らせて、鞭に伸ばした手を上着の内ポケットに向かわせる。
チャリ、と乾いた音を立てて、取り出されたのはつるりとした鍵。
道化師はそれを錆びた鍵穴に差し込んで、静かにゆっくりと扉を開けた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 251人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
シディア - わぁ！！！いなくなってた間にまた面白そうな作品が！！！他の作品も含めて続き楽しみにしています！ (2022年1月10日 14時) (
レス) id: 939d5c7779 (このIDを非表示/違反報告)
よなが(プロフ) - 暇なふぁいるさん» 気に入っていただけたようで嬉しいです。ありがとうございます！ (2021年11月23日 13時) (レス) @page7 id: 58d4b2eb6a (このIDを非表示/違反報告)
暇なふぁいる(プロフ) - クラウンめっちゃ好みのキャラです！これからも読ませていただきます (2021年11月23日 12時) (レス) @page6 id: 115c38c07a (このIDを非表示/違反報告)
よなが(プロフ) - 暇なふぁいるさん» フラグ付いてるの今気付きました！外したと思ってたんですけど……すみません！ご忠告くださった皆様、ありがとうございます！申し訳ありませんでした！！！ (2021年11月23日 10時) (レス) id: 58d4b2eb6a (このIDを非表示/違反報告)
暇なふぁいる(プロフ) - フラグついてますよ！！ (2021年11月23日 9時) (レス) @page5 id: 115c38c07a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：よなが | 作成日時：2021年11月22日 3時
