第三幕「獣の牢獄、生き地獄」 ページ6
とぷん、とペン先をインクに浸す。
闇夜のような紺色が、白い紙の上に魔女の名を綴った。
一等上等な部屋に通され、複数枚の契約書に目を通し、署名しながら、魔女は不意に道化師に問う。
『……クラウン』
「何だい、隻腕の魔女」
『君、私が
呆れたような、不機嫌なような、しかし何の感情の色もないような、複雑で平坦な声音が、物の少ない部屋に響いた。
道化師は返事の代わりに、ケラケラと愉快そうに笑う。
「そうだね、そうだ、確かにそうだ！僕は確かに言っただろ、君は必ず気に入ると」
『気に入る入らないの問題じゃあないんだよ』
「それじゃあ、何の問題なのさ？」
笑いを堪えるフリをして、揶揄うように道化師が言えば、魔女は羽根ペンを静かに置いて、溜息ひとつと言葉を吐いた。
『君のそういうところが嫌いだ。全てわかっているくせに』
「別に全てがわかっているわけじゃあないよ、僕は君のことを人一倍よく知っているだけ。
『それとこれとは、私の中では同じことだよ』
飾り爪のついた手袋を外して、テーブルの上へポイと放る。
生白く、血の通っていないような手を口元に運び、魔女はその指に鋭く白い犬歯を立てた。
ぷちり、と。
薄い皮に穴が開き、赤い血の玉が溢れ出す。
魔女はそれをぺたりと紙に押し付け、契約書を汚さないよう、残った指で道化師の方へ滑らせた。
「ハイ、確かに。ご購入有難うございます、お客サマ」
ちょっと気取った口調で言って、丁寧に大仰に紙束を受け取る。
ではこれを、と小さな鍵を手袋を填め直した魔女の手に握らせて、柔らかなソファから腰を上げ、道化師は大きな扉の前に立った。
「さ、商品を取りに行こうか。なにせアレは生き物だから、檻から出して逃げられちゃ困るんだ。ちょっと汚い場所になるけれど、君、そういうの平気だったっけ？」
『嗚呼、構わないよ』
「それじゃ、こちらへどうぞ〜」
道化師はランタンを片手に、薄暗い廊下を迷いなく進んでいく。
魔女はその３歩ほど後ろをついて歩き、取引会場の裏手、ズラリと並んだ
「ここだよ。あぁそこ、段差があるから気をつけてネ」
『ん』
ガコン、と、重たい音を立てて扉が開く。
荷台に足を踏み入れた途端、耳に届く騒音に、魔女は思わず顔を歪めた。
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シディア - わぁ！！！いなくなってた間にまた面白そうな作品が！！！他の作品も含めて続き楽しみにしています！ (2022年1月10日 14時) (
レス) id: 939d5c7779 (このIDを非表示/違反報告)
よなが(プロフ) - 暇なふぁいるさん» 気に入っていただけたようで嬉しいです。ありがとうございます！ (2021年11月23日 13時) (レス) @page7 id: 58d4b2eb6a (このIDを非表示/違反報告)
暇なふぁいる(プロフ) - クラウンめっちゃ好みのキャラです！これからも読ませていただきます (2021年11月23日 12時) (レス) @page6 id: 115c38c07a (このIDを非表示/違反報告)
よなが(プロフ) - 暇なふぁいるさん» フラグ付いてるの今気付きました！外したと思ってたんですけど……すみません！ご忠告くださった皆様、ありがとうございます！申し訳ありませんでした！！！ (2021年11月23日 10時) (レス) id: 58d4b2eb6a (このIDを非表示/違反報告)
暇なふぁいる(プロフ) - フラグついてますよ！！ (2021年11月23日 9時) (レス) @page5 id: 115c38c07a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：よなが | 作成日時：2021年11月22日 3時
