後輩とオレンジ�� ページ2
「話は単純ですよ。感謝のしるしです」
「いやそうじゃなくて。……あれ、それでいいの？」
「兎にも角にも、プレゼントです」
赤葦とオレンジを見て混乱する私の手を掴んで、まんまるのオレンジを手に押し付ける。赤葦の手はセッターらしく、細くて、長くて、爪は割れることを避けるためにきれいに整えられていた。
「……ありがとう」
「いえ2年間お世話になったので。じゃあ失礼します」
ぺこりと礼儀正しく頭を下げて私に背を向けて教室から出て行く赤葦の背中と、今はなぜか手のひらのうえにあるオレンジを見比べる。
感謝のプレゼントがオレンジって、やっぱり赤葦は変なやつだ。
「あんた、オレンジ好きだったっけ？ 初めて知った」
「果物は基本好きだよ。でも別にオレンジにこだわりはないかなぁ」
「そうなんだ、じゃ、なんでオレンジなんだろうね」
卵焼きを頬張る友人に私はアメリカ映画のようにちょっと大袈裟に首をすくめた。
人の思考を完璧に読み取るなんて無理なので、ある程度はミステリーにしておく方がいい。……きっとね。
『2年間お世話になったので』
鮭のふりかけがかかった薄い紅色の鮮やかなご飯を口に入れる。
微妙に喉に引っかかる感覚。言葉か、ご飯か。どっちだろう。
『感謝のしるしです』
赤葦の言葉が頭の中でリフレインする。
けれど空の雲が動くみたいなこと。要は当たり前のことみたいな気もする。
赤葦の言葉に嘘はない。
私は国公立クラスで、指定校推薦を貰えるわけじゃない。
私が抜けてもマネージャーは２人も残る。
これから模試も増えるし、追い込みの放課後補習も行われる。
じゃあ、と自分で選んだIH予選での引退。
後悔も達成感も人並みに持っているから、これは私の最適解。
IH予選のあと、みんなに盛大に感謝を言われたのに、またお礼の品。
これは不可解……は言い過ぎだとしても、引っかかりは覚える。
「ねぇ、オレンジって特別な意味ってあると思う……？」
「調べればなんかヒットするんじゃない」
困った時のぐーぐるせんせだよ！ともうお弁当箱を空っぽにした友人が楽しそうにいう。そこまでして知りたいわけじゃない。
「いーや。二人いて思いつかないような『特別』はマイナーだよ」
今度、お返しに何か果物でも持って聞きに行こう。
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作者名：杏樹 | 作成日時：2019年9月17日 22時
