episode.58 ページ8
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目黒side
あの日電話越しに聞いた弱りきった声。
昨日彼が抱えていた大量の処方薬。
何でもない訳ないことくらい分かっていたはずなのに、本人の口から告げられると、想像していたよりもずっと重たかった。
でも阿部ちゃんは、俺らを牽制するように、大したことないよとでも言いたげな顔で笑うんだ。
驚いて何も言い出せないメンバーを横目に、ラウールが問いかけた『治るんだよね?』その言葉も上手くかわす。
聞きたいこといっぱいあんのに、明るく振る舞う姿はきっと必死に繕ってるのだと分かるから、それに応えるしかなかった。
撮影の合間も、話す時間が全く無かった訳ではないが、スタッフさんに頭を下げて回り、時折見せる全力の笑顔に、やっぱり何も言えなかった。
仕事終わり、考え事をしたくてひとりで帰路についた。
駅のホームに着いて、俺はベンチに腰掛けた。
乗ったら家に帰れるはずの電車を何本も何本も見送った。
知ったところでどうするか、そんなこと分からないけど、知りたかった。
あの日阿部ちゃんが、何を考えていたのか。
ここに来た時にはまだ明るかった空も、少しずつ暗くなってきた。
分からない。
今日はもう帰ろう、そう思って立ち上がると、目の前を小さな男の子が猛ダッシュで通り過ぎて行った。
『こら!危ないから止まりなさい!』
同時に、お母さんらしき人が大きな声で呼び止めるのが聞こえた。
男の子はホームのギリギリに立って興味津々な様子で線路を覗き込んでいる。
嬉しそうに、ママ見て!と顔を上げたとき、その子の体がホームの方向へぐらりと傾いた。
『危ない!!』
咄嗟に体が動いて、俺は男の子の腕を引っ張った。
間一髪、助かった。
お母さんが走ってきて、何度も頭を下げた後、男の子に視線を合わせてしゃがみ、叱りだした。
その場から少し離れようとその親子に背を向けた時、聞こえてきた声。
『ここに落ちちゃって、もし電車が来ちゃったらどうなるか分かるよね?
死んじゃうかもしれないんだよ?』
心臓が大きくドクンと鳴るのが分かった。
脳裏から離れない、消えてしまいそうな表情。
うっすら記憶に残る口の動き。
あの日電車の音にかき消されて聞こえなかったはずの阿部ちゃんの声が、はっきりと、聞こえたんだ。
『めめ、ここに飛び込んだら楽になれるかな…?』
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ストロベリー - 3早く読みたいです 頑張れ〜 (2023年4月2日 21時) (レス) id: 78d64c6e31 (このIDを非表示/違反報告)
円周率 - いつも楽しく読まさせていただいています。3のほうも読みたいと思っているのですがパスワードを教えてもらうことは可能でしょうか? (2023年3月8日 6時) (レス) id: 6ee190949a (このIDを非表示/違反報告)
みどり - 続き気になるので、楽しみに待ってます (2022年11月26日 1時) (レス) @page45 id: 1e919caffa (このIDを非表示/違反報告)
くろ(プロフ) - いつも更新楽しみにしてます。ちゃんと他のメンバーに支えられながらライブできるといいですね、、、 (2022年7月25日 1時) (レス) @page38 id: 436e54c814 (このIDを非表示/違反報告)
あお - このお話大好きです!更新待ってます、頑張ってください! (2021年10月13日 15時) (レス) id: b9c7362213 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しぃ | 作成日時:2021年5月23日 22時