episode.34 ページ34
*
阿部side
全身が波打つようにバクバクと音を鳴らす心臓が気持ち悪い。
上手く働かない頭で力の抜けた体を引きずりながら、出来るだけ離れた場所にあるトイレに駆け込んだ。
震える手でパチンと指先から血を出して採血をすると、
「、、、うわ、まじかよ、」
映し出されるのは見たこともない数値。
薬が効きすぎて、今度は正常値を大きく下回っている。
そう言えば入院中、これくらい低いのは危篤状態の人と同じような数値だと教えられたことを思い出した。
あの場で倒れていたらと思うとゾッとする。
俺は慌てて、こういう時のために処方されているゼリー状のものを口に流し込む。
対処をしたところですぐに回復するわけでもなく、そのまま壁にもたれかかってずるずるとしゃがみ込んだ。
ハァハァ、と浅く吐き出される自分の息だけが響く。
どれくらい経っただろうか。
身体の不調と孤独感からすごく長い時間ここにいるように感じる。
ピロンッ♪ とメッセージを受信を知らせる音でスマホを取り出すと、ここへ来てからはまだ15分ほどしか経っていないようだった。
【 From ラウール 】
【 阿部ちゃん撮影戻れそう？ 】
思ったよりも早い撮影の再開に少し不安は残るけど、数値は少しずつ正常値に上がりつつあったから、念のためもう一度ゼリーを口に含んでその場を後にした。
うん、もう動悸も手の震えも無いから大丈夫。
あくまで普通どおり、何事もなかったかのように撮影場所に戻るだけ。
セットの隅で迷子の子犬のような顔をしているうちの末っ子は、きっと俺をすごく心配してくれているのだと思う。
ごめんね、ラウ。
余計な心配をかけないことが最善だと勝手に判断をした俺は、良かれと思ってまたメンバーに嘘をついた。
「ラウー、撮影止めちゃってごめんね？」
ラ「俺は全然いいんだけど、阿部ちゃん大丈夫？」
「えー？なにもないよ。それよりさっきさ、自分でも驚いたんだけど、めちゃくちゃ手震えちゃって。
あれね、昨日照とジム行ってさ、最近指鍛えてるとか言うのに付き合わされて。
今日起きたら物持つとき全然力入らないの！照と二人でジムは行くもんじゃないね。」
最年少に対してこんなにもペラペラと嘘を吐く自分に少しばかり嫌気がさす。
それでも、俺の嘘を信じて安心した表情になるラウを見て、これが正しいんだと言い聞かせた。
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あお - 続きが更新されるのを楽しみにしてます。 (2021年5月6日 1時) (
レス) id: 5edf3afd73 (このIDを非表示/違反報告)
ユキト(プロフ) - 苦しくて泣いちゃうけど読み応えあります、大好きな作品です。 (2021年4月19日 1時) (レス) id: 08a263e11b (このIDを非表示/違反報告)
藍華(プロフ) - はじめまして！この作品を愛読させて頂いているものです。ほんとにお話を読むたび苦しくなるのですが、何回も読み返すくらい大好きな作品です! (2021年4月9日 0時) (レス) id: 55f4a21869 (このIDを非表示/違反報告)
恋した月(プロフ) - 初めまして、このお話が好きすぎるのでコメントさせてもらいます()どの描写もabらしくてSnらしくて本当に美しいくて苦しくて大好きです。これからも応援しています。 (2021年2月13日 17時) (レス) id: d6f1a4b68b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しぃ | 作成日時：2021年1月26日 12時
