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 ヒョンジンくんは一人でブツブツと呟きながら何かを考える素振りを見せた後、パッと何かを切り替えたように笑った。それから思わず見蕩れてしまうほどの美しい顔で、思わず背筋が凍りつくような言葉を放った。

 

「まぁなんでもいいか、結局殺すことには変わりないんだし」
「なっ」
「ん?なぁに、まさか生きて帰れるとでも思ったの?お馬鹿さんだね、不安要素を敢えて野放しにしとくわけないじゃん」



『殺す』。まるで部屋に侵入した虫に向けるような、あまりにもあっさりとした物言いすぎて一瞬誰に向けての言葉か理解できなかった。当然のように放たれた言葉に目を見開く。ヒョンジンくんが、私を、殺す?



「ま、まって、」
「あは、すっごい怯えた顔。こうして見ると君、カワイイ顔してんね。僕好みかも。殺す前に記念に一発しちゃおっかな、」



 どこか楽しそうに舌なめずりをして胸元へと伸びた手を思い切り振り払う。そして下半身に無理やり力を込めて立ち上がり、その場から走り出した。後ろから「わぁ、」という大して焦ってもいなさそうな声が聞こえる。
 


「追いかけっこ?いいねぇ、僕そーいうの大好き。弱い生き物を追いつめるのって最高にゾクゾクするよね」



 絶対に自分から逃げ切れるはずがないと踏んでいるのか、余裕を含ませた声に気にもとめず必死に足を動かす。元々運動が得意ではない上に足の踏み場も悪く、何度もそこらに転がっている石につっかかりそうになった。

 どうしてヒョンジンくんが私のことを知らないばかりか命を狙おうとしてくるのか、そもそもなんで私はこんな所にいるのか、分からないことばかりだ。でも今はそんなこと気にしている場合ではない。とにかく、逃げなくちゃ。私の知っている彼とは大きく異なった、得体の知れない、それこそ人外のような彼から。



「……ねぇ、君もそう思わない?」



 ふと、彼の声が耳元に注ぎ込まれた、その瞬間。



「い"っ…」
「はい、つーかまえた。あっけなかったねぇ」



 ふくらはぎに鋭い痛みが襲いかかり、耐えきれずにそのまま前方に倒れ込む。咄嗟に出た両腕に地面の衝撃が加わり肌が擦りむけた感覚がした。上半身も下半身もそれぞれ別の痛みが襲ってきて顔を顰めながらゆっくり足元を見ると、何かに切られたように細長い一本線の傷ができており、そこからじわじわと血が流れていた。

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作者名:時雨 | 作成日時:2024年3月25日 16時

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