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『え、いいんですか?』
「立って食うよりはマシだろ」
不思議。私が横に座るのとか嫌かと思ってた。
予想外の彼の行動にちょっとむず痒いような感覚を胸に感じたあと、私は大きな窓の前、一人分空いたスペースに腰を下ろした。
さっきの名前の呼びの件といい、今のこれといい、最近やっぱり彼との心的距離は縮まってるような気がする。
開いた窓から生温い夜風が部屋に流れ込んで、私の前髪を揺らす。
ちゅうっとチューブから吸い取ったシャーベット状のアイスが口の中で溶けて爽やかな香りが鼻を抜けた。
「…なんか懐かしいわ、これ。昔よく食ってた、」
アイスを食べながら部屋の外にぼんやり浮かぶ月を眺めていれば、隣に座っていた渡辺さんがそう言ってアイスを咥えたままほんの少しだけ口角を緩めた。
『好きだったんですか?これ、』
「小学生くらいの頃の話な。」
幼い頃を思い出したのか、懐かしむような表情でアイスを食べる彼はいつもより少し雰囲気が柔らかい。
いっつもそういう感じにしておいてくれたら私も話しやすいんだけどな。
『そういやさっき、』
「…ん?」
『なんで急に名前で呼んだんですか?』
若干溶け出してるアイスを手でグッと押し出して口に含んだあと、ずっと気になっていたその質問をすれば渡辺さんは、「は?」と顔を私の方に向ける。
『もう私のことは受け入れてくれたって勝手に解釈しますけどいいですか?』
「たまたまだって言っただろ、」
『じゃあまだ私のこと嫌ですか?』
そう聞けば、彼は空になったチューブを手に持って髪を乱した。
「そんなに重要なわけ?俺に受け入れられるのが、」
『そりゃ一緒に住んでるんで。』
嫌々一緒にいるよりは、受け入れてもらえてた方が暮らしやすい。
私の期待に満ちた視線にめんどくさそうに溜息をついた彼は、その綺麗な瞳を私に向けて渋々口を開いた。
「っはぁ、…別に、今はそんなに嫌じゃねーよ。」
『ほんとですか…!』
ぶっきらぼうにそう言った彼に、私はなんか受け入れられたことが嬉しくなって、思わずちょっと大きめの声を出してしまう。
「なんなのお前、めんどくさいんだけど。」
『もうなんとでも言ってください。今なら全くこたえないんで。』
やっぱり彼との距離が縮まってるような気がしてたのは間違いじゃなかったんだ。
やっと得られた、全住人に受け入れられたという確証に、私は鬱陶しそうな彼の視線を受けながら頰を緩めた。
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こゆき(プロフ) - 彩花さん» 気がつきませんでした…!教えてくださってありがとうございます!とても助かりました…!! (2020年12月23日 0時) (レス) id: 7e9ebf3478 (このIDを非表示/違反報告)
こゆき(プロフ) - れいさん» ありがとうございます…!これからも楽しんでいただけるように更新頑張ろうと思います…! (2020年12月23日 0時) (レス) id: 7e9ebf3478 (このIDを非表示/違反報告)
こゆき(プロフ) - べぺさん» コメントくださっていたのに気づかなくてごめんなさい…!待っていてくださる方がいるというお言葉で、更新頑張れそうです!ありがとうございます…! (2020年12月23日 0時) (レス) id: 7e9ebf3478 (このIDを非表示/違反報告)
彩花(プロフ) - 何度もすみません!今日もう一度読み返してたら13ページ目のタイミングがタイミグになってました、!余計なお世話だったらすみません! (2020年12月22日 14時) (レス) id: 7fda05ffd5 (このIDを非表示/違反報告)
れい - なんとなーく更新待ってました…!再開してくれて本当に嬉しいです!これからも楽しんでいきます!! (2020年12月4日 1時) (レス) id: c0a052e646 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こゆき | 作成日時:2020年7月28日 15時